16話 決心
今回で一応区切りとして、次回からは2日ごとに更新となります!
ヒマワリとの話し合いが終わり、見事に俺は断られた。
逃げようにその場から立ち去った俺は、一人海を眺めていた。
「はぁ……振られたんだよなぁ……」
好きという感情は特にないが、パーティーを断られるということは、まぁ振られたと同じだろう。というか、俺の気持ちは既に振られた時の気持ちだった。
「あんた、そんな所でなにしてんの? 魔物に襲われるよ?」
俺の後ろから声が聞こえた。だが、そんな事どうでもいい。魔物に襲われる? むしろ、襲われたいくらいだし。
「ねぇ、聞いてんの? 私知らないからね。せっかく、この私が忠告してんのに聞かないあんたが悪いんだからね」
「あぁ。誰か知らないが、忠告ありがとな」
俺は振り向きもせず、ただ忠告してくれた人に感謝する。いや、感謝なんていう感情を今俺はもっていない。だから、今の俺の言葉はなにもこもっていない、ただの言葉でしかなかった。
「それじゃ、私はどこかに行く事にするわね」
俺の後ろからそいつは立ち去り、海岸を歩く音が聞こえる。
「はぁぁぁぁぁ……ほんと、俺だけあの時の言葉信じてたのかなぁ……」
それは、俺とヒマワリが初めて別れた日。街に行くヒマワリと旅に出た俺。あの時のヒマワリの言葉を信じてたのはどうやら俺だけのようだった。
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「大丈夫。絶対すぐ会うから! その時は絶対パーティー組んでもらうからね! 」
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俺の脳裏に蘇るヒマワリの言葉と笑顔。
脳裏に蘇る言葉をずっと信じ、一人パーティーも組まずにやってきたのは俺の自業自得だ。
「キシャァァァァ」
どうやら俺の周りにモンスターが集まってきたらしい。
そりゃそうだよな。如何にも無防備で背中を見せてる獲物に襲いかからない訳がない。
「はぁ。モンスターか……」
俺が一切攻撃してこないことにモンスターは驚きつつも俺を攻撃してくる。
「グハッ……はぁはぁ……」
俺の体力はどんどん削られて、今や半分を切ろうとしている。
「このまま俺、死んでもいいかなぁ……」
パーティーを断られたくらいで死のうとしている俺はきっと、ダメなやつだろう。だが、俺はヒマワリとパーティーを組むために今までやってこれた。それが絶たれた今、どうしろっていうんだ。
「ねぇ、やっぱり襲われてんじゃん。で、そのまま死ぬ気なの?」
さっき俺の後ろから離れたやつの声がした。幻聴か? いや、これは幻聴ではない。正真正銘、そいつの声だ。
「なんで、戻ってきた……」
俺は声を絞り出し、そいつに問いかける。
「そんなの私の勝手でしょ? 一度フレンド申請断られたくらいじゃ諦めなのが私なのよ」
この場でさっきまで俺に忠告してくれていたのは、俺と決闘して、俺に負けた女。そして、フレンド申請を俺に断られた、ウィッチだった。
「なぁ、お前、ホントの名前なんて言うんだ?」
モンスターは未だ居る。だが、俺は唐突にこいつの名前を知りたくなった。
「それは、このモンスター倒してからね!」
ウィッチは俺を助けるかのように、モンスターと向かい合い、瞬時に魔法を放った。
「雷魔法Lv.6【チェインライトニング!】」
やはり、雷魔法だった。それも、俺が見た事もない魔法。
放たれた魔法は、一筋の雷かと思ったが、瞬時に枝分かれし、無数の雷となってモンスターを襲った。
モンスターは瞬時に雷の餌食となり、敵対象を失った雷は近くにいた魔物すら襲い、俺の周りにいた魔物は絶命した。
「……コレがチェインライトニングか……」
俺はその強さに驚いていた。確かに、この魔法は敵対象が一体の時はあまり強くないかもしれないが、相手が多数ならば相当な強さを誇るだろう。
「はい終わり。で、私の名前だっけ? 私はシズクっていうわ。それであなたはなんて名前だったかしら?」
「シズク……か。俺の名前はエンマだな。それで、なんで俺を助けてくれたんだ?」
「そんなの、さっきも言ったでしょう? 私はフレンド申請を一度断られたくらいじゃ諦めないのよ」
俺もシズクのように何度もヒマワリにパーティー申請すれば良いのだろうか。いや、それもそれでなにか違う気がする。
「そっか。ありがとな」
「で、なんであんたはこんな所に居るのよ。なんかあったの?」
シズクは優しい。きっと、俺と決闘した時も、ただ純粋に戦いたかっただけだろう。根は絶対にいい人で間違いない。
「あぁ。うん。そうだな。話すよ」
俺はシズクにヒマワリの事や、昔のこと、ヒマワリとの約束、いや、俺自身が勝手に守ってきた約束の事を話した。
「あー、そういうことね。理解したわ。で、あんたはどうしたいの? ヒマワリって娘と一生会わない気でいるの?」
「いや、俺は……ヒマワリともう一度会って……」
俺の喉から言葉が出てこなかった。俺はヒマワリともう一度会ってどうしたいんだ? またパーティー申請したいのか? それとも、ギルドを辞めろと問い詰めるのか? 分からない。自分がわからない。
「ま、今は分からなくていいと思うわ。またヒマワリちゃんと会ってからじっくり話し合えばいい。それまでの話し相手として、そうね。しょうがなく私が手伝ってあげるわ。もちろん、ヒマワリちゃんともう一度会うためにも手伝わせてもらうわ」
シズクは俺の心を読み取り、良心からか、それともなにか企んでいるのか、俺に対してヒマワリと出会うための手伝いをしてくれると言ってくれた。
「ありがとな。でも、本当にいいのか? 俺は一度フレンド申請断ったやつだぞ?」
「そんな事どうでもいいわ。それよりも、あんたは私とパーティー組めるの?」
「そうだな。ホントはヒマワリと組みたかった所だが、あいにく断られたしな、シズクでむしろ嬉しいくらいだよ」
「あっそ。んじゃ、さっさと街に転移するわよ。私は、とりあえず汗をかいたからお風呂に入って寝たいの! 分かった?」
「はいはい。とりあえずパーティー申請だけしとくからな」
こうして、俺はシズクとパーティーを組むことになった。もし、次ヒマワリと会った時どうなるかわからないが、今はきっとこの選択で良かったのだろう。
「エンマに近づく女が居たなんて……」
そして、頭上からエンマを見下ろすヒマワリは未だ誰も見たことがない怒りに満ちた顔をしていた。




