15話 勝手に信じていた自分
足が痛い。
さっきもウイッチから逃げるために全力で走ったからか足が軋む。
「くっ……」
足の痛みが俺の身体を蝕む。だが俺は走るのをやめない。走るのをやめたら、なんとなくだけどヒマワリに会えない気がしたのだ。
「はぁはぁ……ここを登れば良いのか……」
走り回ってようやく見つけた坂道。ここを登ればさっきまでヒマワリ達が居た場所に辿り着けるだろう。だが、もしかしたらもう既に居ないかもしれない。
「よくこの場所が分かったね……」
俺がここに来るまで待っていたのか、それとも偶然なのか、俺が登りきったその時話し掛けられた。
「……まぁな」
息切れはしているが、平然を装い、俺は話しかけてくる相手に対応する。
「なぁ、本当にお前はヒマワリなのか?」
俺に話しかけてくる相手。俺が登りきった一番最初に見たそいつは、外見はヒマワリと全く一緒だった。
「うん……そうだよ。私、変わったかな?」
ついこの間、いや、俺と会った時はもっと輝いていた目は今のヒマワリになかった。全てを諦めたような、そんな寂しい目をしているのだ。
「なぁ、お前に何があったんだ?」
ヒマワリの横にもう一人誰かがいるが俺は気にせずに話しかける。
「ごめん。ちょっとこの人と話すから先に戻ってて」
「了解した。それじゃギルドでまた会おう」
ヒマワリはまず俺と話す前に隣にいた人を転移させ、2人きりという状況を作り上げた。
「なぁ、ギルドって……お前、ギルドに入ったのか?」
「はぁぁぁぁぁ……疲れたっ! もういや!!」
「えっ、えっ? どうしたんだヒマワリ」
ヒマワリは2人きりになった途端、目に輝きが増し、前に出会った時と同じヒマワリに戻った。
「あー、ごめんね? 私さ、ギルドだとこんな態度で居られないんだよね……なんか、上の人が止めてきてさ、私のギルドみんなあんな暗い顔しなきゃいけないの……ほんと、やだ!」
「そっか……良かった。ヒマワリはヒマワリだったんだな」
「なになに〜? 私が別人になったと勘違いしちゃったの〜? 大丈夫だよっ! 私は変わらない! なんてたって私だからね!」
「はははっ! なんかお前見て安心したわ。それで、とりあえずどうする? 場所移して話すか?」
「あー。ここでいいよ。見晴らしはいいし、実はこの場所、下を見下ろせる位置以外はモンスターの侵入不可エリアになっててさ、安全なんだよね」
確かに、少しこの場所にいるがモンスターは入ってきていない。そして、俺の敵をヒマワリ達が倒した時、ヒマワリ達はこの崖のような所の先端部分に立ち、下を見下ろせる位置に居たわけだ。そこからなら、確かに俺の敵にも攻撃は出来る。
「それじゃ、とりあえずヒマワリの現状を聞かせてくれ」
「おっけー! んじゃ、その後はエンマの事を聞かせてよね!」
そして、俺達は話し合った。まずは、ヒマワリの俺と別れてからの話。
どうやら、ヒマワリは俺と別れてすぐに大規模ギルド『裁きの騎士団』に入ったらしい。半ば無理やりだとか。そして、モンスターを狩り続け、今日この海岸で景色を見ている所、俺がモンスターに襲われてるのを見てすかさず助け、俺が来るのを待っていたらしい。
「ふむふむ。エンマはなんか私の予想してた通りだね。結局一人ぼっちだし〜! どうせ、私のこと待ってたんでしょ?」
「な、何馬鹿なこと言ってんだよ! 俺は1人が良いから1人なの! それに、俺だって何回もパーティー申請されてるから! 断ってるだけだからな!」
「ふーん。ま、エンマと会えたからどうでもいいや!」
「なんだそりゃ……」
俺はなにもおかしくないのに、いつの間にか笑っていた。それを見てヒマワリも笑いだす。なぜか俺はそれがとても嬉しかった。
「……なぁ、ヒマワリ。ギルドなんか抜けてさ、俺ともう一度パーティー組まないか?」
俺は本心からヒマワリに訊ねた。もう一度出来ればパーティーを組みたい。そして、暗い顔をしているヒマワリを見たくないからギルドも抜けさせたかった。
だが、ヒマワリの返答は俺の予想外なものだった。
「ごめん……それは出来ないや。ギルドも抜けられない。ごめんね。フレンドは多分、大丈夫だと思うけど……どうだろ……」
俺は断られた。そして、また悲しい顔をさせてしまった。
「いや、俺こそなんか変な事言ってごめんな! んじゃ、俺はとりあえずレベル上げしてくるわ!! またいつか会おうな!」
俺は今すぐにでもそこから逃げたい一心で無理やり話を終わらせた。
そして、その場から立ち去るように早足で坂道を下った。
「ごめんねエンマ。次会えたら、絶対に理由説明するから……」
一人取り残された泣き顔のヒマワリの声は俺には届かず、ただ虚空に消えていった。