12話 決闘開始
シザーエヴィのHPやレベルがわかったところで俺は走り出した。先手必勝だ。
「剣技スキル【ソードスラッシュ!】」
まだ俺はスキル無詠唱を覚えていないため、口に出して言わなきゃいけなかった。別にそこまで気にすることではないが、たまに舌を噛むから辛い。
「おらぁ!!!」
スキル共に光った大剣を油断しているシザーエヴィに振り下ろし、大きい腕を粉砕する。
「グギャァァァァァァァア」
シザーエヴィは痛みからなのか、その姿からは出ないような声で叫んでいた。
「よし。あとは頭潰すだけ!」
レベル差からか、シザーエヴィの大きくて硬い腕も瞬時に使えなくなり、こいつの攻撃手段はほぼなくなった。
そして、今こいつは痛みで悶えている。俺はその隙を突き、少し離れた距離から魔法を試すことにした。
「やっぱり甲殻類には雷だよな。雷魔法発動!【サンダー】」
叫び散らしているシザーエヴィの上に暗雲が立ちのぼり、雷が降り注いだ。
まだ俺の雷魔法は弱いが、弱っているシザーエヴィには充分な威力だったらしく、シザーエヴィは叫ばなくなり、焦げて死んでしまった。エフェクトによって消え、こいつのアイテムはパーティーに分配された。
「ほらよ。こいつの素材はくれてやる。まぁ、経験値とボーナスアイテムは諦めろ。これは運営による分配だ。しょうがない」
ボーナスアイテム。これは敵に対して最もダメージを与えた人が受け取れるレアな素材やら武具だ。
ということで、今回は俺が貰うのが道理だった。
「いえいえ、ほんと倒してくれただけでも有難いですよ……そこで、相談なのですが、その、」
「なに?」
「いえ、そのですね。その強さを見込んで、うちのパーティーに入ってくれませんか?」
「すまんがそれは無理だ。俺には約束があってな。その約束を果たすまでパーティーは組まないようにしているんだ」
ヒマワリとの約束。俺はきっとヒマワリ以外の人とはパーティーを二度と組まないだろう。
だから、俺はパーティーに招待されても毎回断っている。
「そうですか。では、俺達はもうちょっと弱いところに狩りにいきます。あなたも気を付けてくださいね」
「あぁ。お前達も死なないようにな」
「はい!」
こうして、俺とパーティーの集団は別れた。
一人になった俺は、とりあえずボーナスアイテムの確認をする事にした。
「あー。今回はシザーハンドかぁ……」
『シザーハンド:シザーエヴィの甲殻から作られる腕装備。ハサミの形をしていて物理攻撃に強い』
昔にも入手したことがあるこの装備を俺はアイテムバッグにしまい、また砂浜を歩き出した。とりあえず、レベル上げをするために狩りをしたいのだ。
「……敵いねえなぁ……」
俺が歩いても歩いても一切敵は現れなかった。もしかしたら、この場所は狩り尽くされたのかもしれない。
「もうリポップしねえのかな……別の場所行くか」
既にリポップというモンスターの発生がなくなってそうな雰囲気があったので俺はまた転移石を使おうとした。
だが、そんな時だった。俺の目の前に雷が落ちてきた。
「うぉ!なんだいきなり!」
「あら、避けちゃうのね。ふぅん。中々強そうじゃない。どう? 私と戦ってみない?」
雷が落ちて、それによって出てきた煙から一人の女の声が聞こえてきた。
「くっそ。今度はPKかよ。ついてねえなぁ……」
PK。即ちプレイヤーキル。街以外のモンスターフィールドなら人を殺せる。それを利用してのプレイヤーキルだ。
今までも何回かPKされかけてきたが、難なく乗り越えてきた。だが、こいつはどうも俺より強そうだ。
「ふふふ。あなた、今PKされると思ってるでしょ。私はそんなことしないわ。だって、PKしたら名前に証がついちゃうじゃない。そんなの美しくない。だから、決闘しましょ!」
この女の言っていることは正しい。確かに、PKした者は、名前の横にPKした証がつけられる。その証を持つ者は街に入れないし、物が買えないというデメリットが付き纏う。
おおよそ、この女もそれを嫌がっての決闘だろう。
だが、決闘なら絶対に死なないし、体力は半分で決着がつく。それなら別に受けても構わない。強い敵と戦うのは楽しいしな。
「いいぜ。決闘受けてやるよ」
「あら、強気じゃない。そうね、じゃあ決闘申し込むわよ」
「その前に聞きたいことがある、お前、さっきの雷魔法。当たってたら多分俺死んでたぞ? それをわかっているのか?」
姿が見えた女は、魔女のように帽子をかぶり、服は露出が激しく、少し見るのも躊躇う装備をしていた。だが俺は、真っ直ぐ女を見つめ、怒りを込めた言葉で訊ねる。
「そうねぇ。ま、どうせ躱されると思っていたからね。当たってたらドンマイってことよ」
「そうか。分かった。お前はどうやら一回ボコボコにしなきゃダメなようだな」
どうやら、この女はこの世界を甘く見ているらしい。
こんな世界を甘く見ている女に負けたくないと思った俺は、こいつを絶対にボコボコにしてやると思った。
「あらあら。怒っちゃったかしら。それじゃ今度こそ申し込むわね」
『プレイヤーネーム。ウィッチさんから決闘の申し込みがありました。受けますか?
【yes】 【no】』
俺の目の前に決闘の申し込みの文字が現れた。
もちろん、俺はすかさずyesをタッチした。
そして、俺とプレイヤーネーム、ウィッチの決闘が始まった。




