111話 物語は終わりへ
ルシフェルと堕天使の一人が睨み合い、お互いに今にも攻撃しそうな態勢をとっていた。
そして、同時に二人が動き出し、お互いの攻撃がぶつかり合う。
天使と堕天使の本気の戦いは塔本体にもダメージを与え、まるで地震のように辺りを揺らしていた。
「ルシフェル!落ち着け! 塔が壊れたら俺らまで死ぬぞ!!」
俺は叫んだが、ルシフェルたちの戦いの音にかき消されたようで、ルシフェルに聞こえることはなかった。
だが、そんな戦いも突然終わりを迎えた。
『もう飽きたわ』
戦っていない堕天使がルシフェルと攻撃をしている堕天使の間に割り込み、無理やり戦闘を止めていた。
片手で攻撃を止めているのを見る限り、こいつがどうやら一番強いようだ。
『ふぅん。ま、所詮は私から作られた存在か』
ルシフェルは堕天使から離れ、俺たちの方へ近付いてきた。
「ダメ……私の攻撃を止めたやつ……強すぎ……」
俺たちの中で最高戦力であるルシフェルがそう言うなら俺たちに勝ち目はないだろう。
いや、でも今から時間を稼いでエデンの塔を攻略したいる奴らが登ってくれば可能性があるか?
『あら。もうここまで登ってこれる人なんていないわよ?』
堕天使が指を鳴らし、俺たちを含め、全員がどこかへ移動した。
『ほら、もう下の世界は壊滅してるわよ。下の世界で人々を守れるほどの戦力を持ってる人は少ないわ。それに対して、守られる人は多すぎる。必然的にみんな死んでいくの。ま、魔物を召喚してるのは私だけどね』
笑いながら話すこいつはやっぱりクズだった。
『さて。ここで話は終わり。一応私に会えたから君たちはゲームクリアにしてあげるよ。ま、ルイスとルシフェルは天使だから現代に戻れないけどね』
こいつを倒す方法は現状ない。
俺達が束になって戦っても勝てない。そうなるとやはり、大人しく現代に戻るしかないのだろうか。
『姉さん。あの少女のことは……?』
『あー!忘れてた忘れてた。そうそう。君たちと一緒にいた、ヒマワリ? だっけ? あの子はもう天使にしたから。あの子も現代には戻れないね』
いつからなんだろう。
ヒマワリはいつから天使になっていたのか。
俺はそれだけが気になった。
もはや俺たちに戦う術はないのだ。聞くことしか出来ない。
「なぁ、ヒマワリはいつから天使になったんだ?」
堕天使へと訊ねる。
答えてくれるかはわからないが、聞かなければ何も分からないのだから。
『うーん。いつだっけなー。忘れちゃった。ごめんね』
「そうか」
『うんうん。それで誰が残るのか決めた? て言っても、お気に入りかそこの女の子のどっちかだけど』
お気に入りは俺。女の子はシズクだ。
こうなってくると俺の中で選択肢は一つしかない。
「俺が残る。だから、全員を現代に戻してくれ」
「ちょ、エンマ! 勝手に決めないでよ!」
「お前は戻るべきだ。俺は大丈夫。いつか絶対戻るから」
『やっとクリアだね! おめでとー! はい。それじゃ、みんなを戻しちゃうねー!』
堕天使が手を上にあげ、なにかを唱える。
その瞬間、シズクの体は光だし、数秒後には消えてしまった。
『よし。これでみんな元の世界に戻ったよ。めでたしめでたし』
「ほんとに戻ったのか? この世界で死んだやつも」
『まぁ大丈夫じゃない? 私が楽しむためにこの世界での死は現実の死とか言っただけだし、現実だと生きてるでしょ』
どうやら本当に俺以外の人達は現実へと戻ったらしい。
いや、現実に戻ったなんて俺にはわからない事だ。
シズクが光になって、もしかしたら現実じゃない所へと飛ばされたかもしれないし。
それでも俺はシズクが、この世界にいた人たちが現実へと戻ったことを祈る。
「で、俺のことはどうするんだ?」
『うーん。君かぁ……私のお気に入りだしなー。どうしよっかなー……よし!決めた! 君も堕天使にするね』
堕天使の言葉が放たれた時、俺の体は俺の意思に反して動き出した。
そして、堕天使へと近づき、自ら堕天使になることを望むかのように跪いた。
『よしよし。これで君も堕天使になれるね。良かったねー』
堕天使が自分の血を俺へと飲ませ、俺は堕天使となった。
羽が生えて変な感じだが、あまり人間の時とは変化を感じられない。
だが、これで俺はこいつらと同じ力を手にした。
今ならもしかしたら勝てるかもしれない。
そんなことを考えている時だった。
「固有スキルがアンリミテッド・ブレードへと強化されました」
まただった。
前回と同じように俺の固有スキルは変化した。
ここまできたらもう俺は悪あがきでもなんでもするしかない。
じゃないと妹にも会えないんだから。
「死ねよ堕天使。固有スキル『アンリミテッド・ブレード!!』」
完全に隙をついた一撃のはずだった。
なのに、堕天使は俺の攻撃を易々と避け、俺のことを蹴飛ばした。
『うーん。まさか抵抗するなんてね。良かったよ。あんまり力を与えなくて。今の君はまだ人間より少し強い程度だからね。私の隙をついても勝てないよ』
『姉さん。こいつは殺しとこう。危ない』
『まぁそうだよね。反抗してきたら危ないし、お気に入りだけどしょうがないかぁ……』
二人の堕天使が俺へと歩いてくる。
だが、俺は蹴られた衝撃で立ち上がることすらままならない。
周りを見渡して助けを求めようにも、何故かルイスもルシフェルも居ない。
「くっそ……やっぱり俺は一人かよ……」
段々と目眩がしてきている。
この世界で死んでも現実へと戻れる。
でも、俺はもう戻れないだろう。
堕天使になってしまったのだから。




