109話 久しぶりの戦闘
ドラゴンへと辿り着き、俺は頭へと剣技を放とうとした。
だが、俺は剣技を放てなかった。
それもそのはず、こいつは俺が来るとわかっていたのだ。
だから、俺が辿り着くよりも早くドラゴンは迎撃がとれる態勢をとっていた。
これでは俺の剣技は防がれ、さらに反撃をくらってしまう。
「エンマ!一旦下がって!!」
「了解!」
シズクの言葉を聞き、一度ドラゴンとは距離を取る。
俺は距離を取りながらこのドラゴンに勝つ方法を考えた。
まず、このドラゴンは戦ってみた感じ、80階層ボスレベルだ。
前の俺たちなら無理だったかもしれないが、90階層以上のボスを4人で倒したりと、それだけで膨大な経験値が入っている。
まぁ、スキルは変わってないが、レベルだけならこのドラゴンにも勝てるだろう。
ただ、人数の問題だ。魔法が一人と近接が一人ではやはり強大なドラゴン相手にはキツい。
最初の攻撃では上手くいったが、既に警戒しているこのドラゴンに隙はあまりないだろう。
「ねぇ、あのドラゴンに二人で勝てる見込みはあるの?」
既に近くにいるシズクが俺へと訊ねる。
だが、その問い掛けに俺は簡単には勝てるとは言えない。
正直、二人だと見込みは薄いだろう。
限界まで無理して、荒っぽい戦い方をすればまだ可能性はあるかもしれないが、俺が死ぬという可能性もある。
「俺がスキルでバリアを張りつつ、特攻して固有スキルを与えるくらいか? お前の魔法で煙を出したり、後は、そうだな。俺を巻き込みつつ魔法を与えれば相手はどちらかにしか対応できないかもしれない」
「でも、それは貴方の体に影響を与えるわ。それなら、私が貴方の剣に魔法を付呪して、私も近接をした方が良いと思わない?」
「いや、ダメだな。お前はまだ近接戦闘に慣れてない。お前は遠距離からの援護に専念してくれ」
確かに、シズクの案も作戦としてはいいかもしれない。
だが、それは近接戦闘に慣れていればの話だ。
近接戦闘に慣れている二人が交互に敵意を変化しながら戦えば確かに勝ちやすいだろう。
「そうね。あなたの作戦にしましょ。ただ、先に貴方の剣に魔法を付呪させてもらうわ」
俺は剣を抜き、シズクに渡す。
あまり時間はないが、シズクが高速で魔法を詠唱し、俺の武器に氷属性を付呪した。
実際は光属性の方が付呪するのは正解だろう。
だが、シズクは光属性が使えない。
だから、今はとにかく一番早く付呪出来るのをやってもらったのだ。
「それじゃ、できるだけ巻き込まないように魔法で援護するわ」
「あぁ。任せたぞ」
俺はシズクから剣を受け取り、ドラゴンへと走る。
ドラゴンは翼を使って飛ぶことはせず、俺を敵と認識し、迎撃するようだ。
俺自身に敵意があるこの状況はいい状況だ。
これならシズクへと攻撃はいかないはずだ。
「さて、シズクが付呪してくれたし、少し違う剣技を使ってみるか。剣技 『ソードバスター!!』」
この剣技は自身の剣の剣圧を飛ばす技だ。
込めた力によって大きさは変わるため、俺は全力を込めて放った。
その結果、ドラゴンへと氷を纏った剣圧が飛んでいった。
「『二連魔法』『魔力増大』ふぅ。やっぱりこれは疲れるわ。でも、数発だけなら。炎魔法Lv.8『インフェルノ・スラッシュ!!』」
俺の剣圧と共に、シズクの魔法である炎の刃も飛んでいた。二つの攻撃はドラゴンの翼へと当たり、爆発した。
辺りには煙が撒かれ、上手く俺の体も隠せそうだ。
「さて、もう一発痛いの行くわよ。風氷魔法Lv.9『ウィンドアイスジャベリン!』」
シズクがドラゴンへと放った魔法は、巨大な氷の槍だった。
これならただのアイスジャベリンだが、シズクのは違った。
まず、風に乗って飛ぶこともあり、スピードが桁違いだった。
ドラゴンへと俺が攻撃する前にドラゴンに直撃したのだ。
それも、風を使って操作し、ドラゴンの目を貫いたのだ。
みるみるうちにドラゴンの体力は減っていく。
そして、目を潰されたドラゴンは怒り、自分の周りへと手当り次第に攻撃していた。
「隙だらけだな。終わらさせてもらうぜ、固有スキル『サウザント・スラッシュ!!』」
千をも超える斬撃をドラゴンへと繰り出し、ダメージを与えていく。
だが、それでもドラゴンは死なない。
鱗が硬すぎるのか、ドラゴンの肉へと剣が上手く届いていないのだ。
「くっそ。まだだ、シズク! 魔法を頼む!」
「でも、そこだと……」
「今しかこいつは怯んでねえんだよ!」
「わ、分かったわ!雷炎魔法Lv.10『ライトニング・エクスプロージョン!』」
ドラゴンに向けられた魔法は、俺を含めて大爆発した。
だが、これでいい。これならもう少しだけドラゴンに隙が出来る。
俺は、魔法を受けつつ、ドラゴンの体を使って衝撃に耐え、自身のアイテムから武器を取り出した。
『聖なる刃』
80階層で入手した短剣だ。
短剣というのにはいささかデカく、重いが、この武器には光属性が付呪されている。
今回の相手には相性がいい武器だ。
「よし。それじゃ、終わらせるぜ。二刀流スキル『閃撃一閃!』」
ドラゴンの首元を瞬時に両手の剣で攻撃する。
首元は肉質が柔らかく、剣が通りやすい。
このスキルによってドラゴンの体力はもはや無いに等しい程になっていた。
「時間掛かりすぎたかな。ルイスとルシフェルには申し訳ねえな。ま、負けると思ってたけど、勝てたからいいか」
俺はドラゴンへと短剣を投げ、ドラゴンを死へと追いやった。
最後にブレスを吐こうとしていたのが運の尽きなのか、短剣はちょうど口の中へと突き刺さった。
こうして、俺とシズクはドラゴンからの攻撃を受けることなく勝利した。
「ま、これも全部レベルのおかげだな。スキルの威力とかも段違いだし」
「そうね。でも、正直こんな風に倒せるとは思わなかったわ」
「だな。俺も負けると思ったけど、なんとかなるもんだな」
「えぇ、そうみたいね」
俺達が喋っている中、ドラゴンはその巨大な体を光らせ、エフェクトとなって消えていった。
ドラゴンが消えた後、短剣が落ちる音が聞こえ、それと同時に二つの拍手の音が聞こえてきたのだった。




