108話 個々の戦い
ルシフェルと対峙しているボスモンスターをとりあえず鑑定する。
俺自身が戦うことはないが、せいぜい名前くらいは知っておきたい。
『エンシェントドラゴンナイト』
俺の鑑定で見れるのは名前くらいだった。ルシフェルに教えれるほどの情報はないはずだ。
後は、目の前で繰り広げられる戦いを見るだけ。
「ちょっと頑張る……」
先に動いたのはルシフェルだった。
以前のボスを倒した時とは違い、自身の周りにオーラを纏い、小さい体で走り出す。
だが、小さい体で走ってるとは思えないほど速かった。
エンシェントドラゴンナイトの近くまで一瞬で移動したのだが、相手もその行動を読んでいたのか、真下へとブレスを放つ。
「凄い……わね……」
「あぁ。これでもまだ完全に本気を出してないからな。よく俺は勝てたと思うよ。いや、あの時の妹は天使の力がほとんどなかったのかもしれない……」
ルイスとシズクがなにかを話している中でも戦闘は続いている。
激しい音が辺りに鳴り響き、両者ともそれほど傷を負っていない。
もはや攻撃の読み合いをしているのだ。
だが、エンシェントドラゴンナイトもルシフェルの動きに段々と付いてこれなくなったのか、徐々に徐々にダメージを負い始めた。
「95階層からこんなに強いのかよ……」
俺はまたしても戦力外通告を受けた気がした。
少し本気を出しているルシフェルと現状は同等の戦いを繰り広げているのだ。
こんなのルイスやルシフェルが居なければ攻略に何年掛かるか分からない。
「三人とも、ごめん。止めれなかった」
突然戦闘の音が止み、ルシフェルと傷ついたエンシェントドラゴンナイトが最初より距離をとって対峙していた。
そして、エンシェントドラゴンナイトが持っている槍を空へと掲げる。
これもこいつの力の一つなのだろう。
エンシェントドラゴンナイトは自分の周りに更に二頭のドラゴンを召喚した。
槍を掲げるだけで召喚したのだ。それも、一頭はエンシェントドラゴンナイトが乗っているドラゴンと同じ。
もう一頭は漆黒のドラゴンだった。
「止めれなかったってこういうことか」
「うん。それも、あいつの固有魔法のせいで私はあの二頭のドラゴンに攻撃出来ない。だから、私はさっきまでのようにボスモンスターを倒すから、お兄ちゃんとエンマたちは二頭のドラゴンを任せるね」
俺たちは無言で頷き、ルシフェルの隣へと立つ。
「それじゃ、僕がエンシェントドラゴンをやる。君たちは黒いドラゴンを頼むよ。倒したら援護に向かうから」
「いや、俺たちで倒してしまうよ」
「そうね。そろそろ私も動かないと身体が鈍っちゃうし」
「そうか。それじゃ、君たちが危険だと判断したら助けに向かうことにするよ」
「三人とも……集中。来るよ」
ルシフェルの言う通り、俺たちに向かって飛んでくるドラゴンたちが居た。
すぐさま俺たちは三方向に分かれ、個々でドラゴンを挑発して敵意をこちらへと向ける。
「よし。成功したな。後は倒すだけだ」
「いつも通り、私が魔法で援護するわ。エンマは無理をしないで、頼むわよ?」
「あぁ。任せとけ」
黒いドラゴンと対峙し、俺は相手の出方を窺う。
俺から動くことも考えるが、もし相手にカウンターのような技があった場合を考慮すると、相手の攻撃を待った方が良いだろう。
それに、シズクが遠距離から魔法を撃ってくれる。
少しずるいが、最初に敵意をシズクへと集め、隙を狙って弱点である頭にスキルを叩き込めばある程度はダメージを与えれるだろう。
もちろん、この手は最初しか通用しないが。
「シズク! 魔法を頼む!」
「えぇ。火魔法Lv.10『インフェルノ・グレイズ!』」
ドラゴンに果たして火魔法が通用するのかはわからないが、シズクの魔法はドラゴンを容易く包み込み、焼き尽くそうとしていた。
「シズク! すぐに回避できる準備をとっといてくれ!」
「わ、分かったわ!」
火魔法でもHPは削れていたが、魔法が直撃したドラゴンは怒り狂っていた。
そして、俺の狙い通りドラゴンの敵意はシズクへと集中する。
ドラゴンは羽を広げ、少しだけ浮かび上がり、シズクへと突進した。
もはや俺のことは眼中にないようだ。
「よし、作戦通りだ。剣技『ダブルスラッシュ!』
文字通り剣を高速に振り、相手へとダメージを与える技だ。
ドラゴンの首は肉質が柔らかく、剣が通りやすい。
眼中にもなかった俺の攻撃を受けたドラゴンは、予想外のダメージに体勢を崩して地面へと落ちた。
「さて、ここからが勝負だぜ」
ドラゴンの体力はまだまだある。
今からは相手に最初のような隙はないだろう。
俺は剣を構え、落ちて未だ飛べていないドラゴンへと向かっていった。




