102話 ルイスの過去話3
最上階に妹がいた。
殺したはずの妹が、綺麗な姿で立っていた。
動いていた。でも、来たのは僕のそばじゃなかった。
最上階に居た翼が真っ黒な悪い笑顔を浮かべた女のところだった。
「おい!!」
僕が堪らず声を掛けるが、妹は俺を一度だけ見るとすぐに興味無さそうにした。
悲しくなった。
それと同時に、あれは妹じゃないと思い始めた。
姿形は一緒。でも、心がないと思った。
だから、僕はまず真っ黒な翼の生えた女に話し掛けた。
「ここが最上階だろ? ほら、クリアしたんだからみんなを元の世界に返せよ」
『きみは何を言ってるの? もうみんな戻ってるよ? ほら、死んだ人も現実で生きてるから安心しなよ』
女は笑っていた。
まるで無邪気な子供のように、ゲームで遊び終わったあとの笑顔だった。
「お前、どうしてあんな嘘を……」
『はっ? そんなの楽しむために決まってるじゃん。現実でも死ぬと分かればみんな必死になるでしょ? まぁ、なんか噂で生きてるみたいになってたみたいだけど、良かったよ、君が来てくれて』
どうしてだろう。
どうして僕がここに来れば良かったんだろうか。
『勘違いしないでほしいなぁ。私としては、誰かが来てくれれば良かったの。だって、ほら、世界を作り替えれるじゃん』
その言葉が放たれた後、僕が見たのは虚無だった。
この空間、この塔以外何も無い真っ暗な空間だ。
こいつが作ったのか分からないNPCも、生きていたプレイヤーも、全てを巻き込んで消滅した。
この女にとって誰の命でもおもちゃのようなものなのだろう。
「分かった。だから、早く僕と妹を元の世界に返してくれ」
もうこんな世界にいたくなかった。
これ以上誰かが犠牲になっても、僕は妹と戻れれば良かった。
このゲームが繰り返されたとしてももう僕には関係ない。
そう思っていた。
『ダメだよ? 君とこの子は次の世界のために必要だから、私好みに作り替えて残らせてあげるね。大丈夫。仲間は沢山いるから』
女はいつの間にかぼくに近づいていた。
僕は女に触れられた。
触れられただけで僕は苦しくなった。
背中の辺りが妙に熱くなった。
焼け死にそうだった。
そうして、やっと痛みが消えた時、ボクの背中には羽根が生えていた。
『やっぱり私って天才』
この女は何でもできるのだろうか。
まさか、人を丸々天使にするとは考えなかった。
となると、僕はどうなるのだろう。
仲間が居るとか言っていたが、どこにいるのだろう。
『あちゃー。やっぱり君失敗作だった。君、人間としての成分が強すぎだよ。天使の力あんまり与えれなかったや。ま、いいや。人間程度の力じゃ天使に勝てないだろうし、君は牢獄行きだ』
僕はどこからか現れた表所のない天使に連れ去られた。
連れ去られる時に見えた妹は、背中から真っ黒の羽根を生やし、心がないと思っていたのに、僕の方へと手を伸ばして泣いていた。
あぁ。やっぱり僕は妹を救えなかった。
こうして、僕はまた妹と離れ離れになった。
攻略したのにも関わらず、僕と妹だけはこの世界に残された。いや、正式にはその時は妹がどこに行ったかなんて分からなかったんだ。
僕は、天使に牢屋へと入れられそうになった。
あの女がすぐに作った全く同じ景色で、どこが変わったのかもわからない世界の牢屋。
僕は妹を助けなきゃいけなかった。
だから、僕は天使を殺した。
不思議と、こいつは人間とは思えなかった。
そして、必死の思いで僕は逃げた。
逃げ切れるとは思わなかった。でも、追っ手もこない。
逃げ切れたと確信した。
それから僕は一人で妹を探した。
その頃には新しい僕達のようなプレイヤーが入ってきた。
僕達の時にはなかった設定やスキル。
それを僕も使えた。まだ半分天使、半分人間だからだろうか。
そうして、数ヶ月、いや、正確にはどれほど時間が経ったのか分からない。
でも、妹を見つけた。紛れもない本物だ。だけど、僕には分かった。妹は天使に、いや、堕天使になっていた。プレイヤーには上手く誤魔化しているようだけど、僕が天使の力があるのか分かってしまった。
でも、その隣には三人のプレイヤーが居た。
妹は笑顔だった。楽しそうだった。
僕の存在はきっと忘れられていると思った。
少しだけ嫉妬した。でも、僕は前とは違った。三人のプレイヤーと妹の幸せを願い、僕は隠れて見守る事にした。
妹を守るためだ。それでも、三人のプレイヤーを信じて、ほとんど見る事は無かった。
でも、その日は違った。
「今日は見守らないと……」
そんな気がした。
見てないとダメな気がした。また遠くにいく気がした。
三人のプレイヤーを信じているが、僕も念の為近くに居ることにした。
スキルで姿を隠し、その日を見守った。
やっぱり事件は起きた。
妹は連れ去られた。
でも、三人のプレイヤーを僕は憎まなかった。三人は頑張ってくれた、妹と仲良くしてくれた、妹を信じてくれた。
それだけで僕は三人のプレイヤーを許した。
そうして、また幾つかの月日が経ち、妹を探し始めた。
見つけるのは簡単だった。
妹を初めて殺した場所。
そこにまた妹は居た。もしかしたら、妹はもう僕のことを覚えていないかもしれない。
だから、僕はひとまず91階層で隠れて待つ事にした。
なにか案が浮かぶまで。




