101話 ルイスの過去話2
目を閉じて真っ暗になった。
数秒、数十秒。そろそろ攻撃されて死んでもおかしくないくらい時間は経った。
でも、僕は生きていた。
だけど、僕は目を開けなかった。
目を開けたら、僕はきっと泣いてしまう。頬に伝わる冷たい水滴が僕の心を締め付けた。
『お兄ちゃん。起きてよ』何度も聞こえる声。
こんな情けない僕をまだ妹はお兄ちゃんと慕ってくれた。
どうしてこんな妹と僕は喧嘩したんだろう。
どうして僕は怒声をあげたんだろう。
近くに妹が居なかったから? 本当は一人が怖かったから?
いや違う。自分自身にイラついていたからだ。
妹がこの世界に留まると言った時、どうしてなんだと思った。
だけど、今なら分かる気がした。
「ごめんな。お兄ちゃん。お前の気持ち分かってなかったや……」
「ううん。私の方こそお兄ちゃんに頼ってばっかだったのが悪いよ……」
僕は目を開けた。
涙目で僕の前にいる妹を僕は抱きしめた。
妹が回復してくれたのか、足は元に戻っていて、僕達の関係も元に戻った。
「なぁ、お前はまだこの世界にいたいか?」
「うーん。お兄ちゃんとならどこでも大丈夫だよ」
「そうか。でもなぁ、お兄ちゃんとしては現実に戻りたいかな。お兄ちゃんはアニメがないとダメだから」
僕の言葉で妹は久しぶりに笑顔を見せてくれた。
僕達は二人で大笑いした。
何がおかしいのか分からない。でも、なんだろう。
僕は今日やっと妹と仲直り出来た。
長かった。きっと、僕自身がケジメをつけれなかったからだ。
妹の強さに劣等感を抱き、一度でも守られたことに嫉妬していたからだ。
それが僕をおかしくした。
僕は妹を守るべき存在として下にみていたんだ。
でも、妹は僕を対等の存在として見ていた。
それでいて、僕を心から尊敬してくれて、心から大事にしてくれた。
だから、僕は91階層に行った時、本当に絶望したんだ。
「お兄ちゃん。二人で倒せるかな?」
「大丈夫だろ。俺とお前は最強なんだから」
僕と妹はずっと二人だった。
何度もパーティーに誘われたが断り、僕と妹は離れようとしなかった。
もはや、二人の間でお互いは心の支えになっていた。
でも、この時僕はもうちょっと考えるべきだった。
妹と二人でボスに挑まなければこんな結末にはならなかった。
「それじゃ、行こっか」
妹が扉を開けた。
その瞬間、何か黒いもやみたいなものが妹を包んだ。
そして、妹はその場に浮かび上がり、意識を失った。
僕はその時感じてしまった。
妹が乗っ取られたと。
本能的にわかってしまった。妹は居なくなったのだ。
ただ最初に扉を開けたというだけで。
「返せよ。なぁ、僕の妹を返してくれよ。お願いだ」
僕はボス部屋に入った。
そこには妹がいた。
今までとは全然違う妹だ。
だから、僕は殺した。
妹を殺した。その日初めて僕は自殺しようと思った。
妹を殺したその部屋で、僕は自分の腹に剣を突き刺した。
減っていく体力。
でも、どこかで妹が待っている気がしたから回復なんてしなかった。
ただ死ぬのを待った。不思議と痛くなかった。
……でも、僕は死ねなかった。
僕を回復する人がいた。
僕を慕っていた弟子のような奴だ。
僕を見つけた時、僕はもうどこも見ていないような目をして死ぬのを待っていたように見えたらしい。
だから、そいつは僕を回復した。
そいつには僕が必要だった。
でも、僕は死にたかった。
だから、僕はそいつに殴りかかった。
「なぁ、死なせてくれよ!!妹のとこ行きてえんだよ!! やっと仲直りしたのに……僕は救えなかったんだよ!!妹を殺す兄なんて……どこにいんだよ……」
僕は殴って途中で泣いてしまった。
そいつは僕を許した。
殴ったことも、一晩中泣いたことも、誰にも言わなかった。
後で知った。そいつは自分が生まれた時に妹が死んだらしい。
現実での話だ。
僕を先に助けたから妹が間に合わなくて死んだ。
そいつは僕のせいと言っていた。
そいつは一時期今の僕みたいに自暴自棄になって現実で死のうとしたらしい。
でも、死んだはずの妹が見えて、『頑張ってお兄ちゃん』と言われて、だから死ぬのをやめた。そう言っていた。
だから、僕ももう少しだけ頑張ろうかな。と思った。
そんな時、僕は目を疑うような情報を知った。
それは、『この世界で死んだ人は現実では生きている』
嘘みたいな話だ。運営は死ぬと言っていたのに、あれは嘘だったのか?それとも噂が事実ではないのか?
分からなかった。困惑した。だから、僕はこの世界を攻略してみようと思った。
そして、もし妹が生き返らないなら、僕は死のうと思った。
それほど僕にとって妹は大事だった。
僕が死んでも、妹さえ楽しく暮らせるならそれでいい。
だけど、妹が死んで、いや、僕が殺して、僕だけ現実で生きるなんて、僕には耐えられなかった。
僕は僕の弟子であるそいつと共にエデンの塔を死ぬ気で攻略した。
最上階に着いた時、そいつは僕を守るために死んだ。
だから、僕だけ生き残って最上階に居た。
最上階で見たのは、どうしてだろう。
殺したはずの妹だった。




