98話 残された兄妹
ルイスが居ない。
この事に俺たちは困惑したが、ここまで来たらとりあえずボス部屋中央まで行くしかない。
だが、もしもこの部屋のボスが強敵ならば二人で勝てるわけがない。
そして、俺達がボス部屋中央まで来た時、部屋の全てに光が点いた。
「そろそろボスが見えてくるな……」
「そうね。ルイスさんの妹。どれくらい強いのかしらね。救うなんてこと出来るのかしら……」
俺達が少しだけ中央で待っていると、上から不自然に黒い羽根が落ちてきた。
「堕天使の羽根……か?」
黒い羽根の他にも、白い羽根も混じって落ちてきていた。
そして、その羽根を落としているボスがようやく空から降り立った。
「天井がめちゃくちゃ高いのは、やっぱり天使がボスだからか」
「ルイスさんはどこに行ったのかしらね」
ルイスが何処にいるのかは分からないが、俺とシズクは目の前にいるボスでそんなことどうでも良くなってしまった。
「妹って、なんで、なんでお前が敵なんだよ!!」
俺はルイスの妹であり、ボスに思い切り叫んでしまった。
それもそのはず、俺たちの目の前には、俺とシズクがずっと助けたいと思っていたルシフェルが居るのだ。
「エンマ! ダメ!! そんな無防備で近付いちゃ!!」
シズクがなにかを言っているが、ルシフェルが危険なわけがない。
ルシフェルが俺たちに攻撃をしてくるわけがないんだ。
「なぁ。そうだろルシフェル……」
「───獲物発見。排除します」
俺の願望は一瞬にして砕け散った。
武器も手になく、守る手段も持ってなかった。俺に対して、ルシフェルは突撃してきた。
きっと天使としての力を最大限に使った攻撃なのだろう。
今までに見たこともないほど口を開けたルシフェルが俺の肩へと噛み付いた。
「────ッッッ!!」
声にもならない叫びがつい出てしまう。
痛みがも徐々に出てきて、肩の骨が砕かれているのが分かってしまう。
俺の体力も減りに減り、ルシフェルが肩から離れた時には、肩の肉は削げ、本来右肩があった場所は抉れていた。
俺の右腕の骨が見えてしまう程だ。
「エンマ!! とりあえず回復!!」
シズクが俺に近づき、肩へと思い切り回復薬を振りかけた。
飲むよりは回復量は少ないが、即効性があり、武器を持つことすら出来ないほどに抉られた肩を治すにはかけるしかなかったのだ。
「エンマ。ダメよ。多分、ルイスさんが言っていたのはこの事よ。前に私たちはルシフェルと仲良くなった。だから、今回も私たちに賭けてくれてるのよ」
「分かってる。だけど、俺にあいつを攻撃するなんて無理だ。救いたいけど、方法が見つからねえんだよ」
俺達が話している間にも、ルシフェルは俺たちへと攻撃を繰り出そうとしていた。
どうやら今度は遠距離攻撃のようだった。ルシフェルの周りに光の棒みたいものが無数に浮かび上がり、俺たちへと飛ばしてきた。
「シズク!俺の裏に隠れろ! 」
「え、えぇ!!」
「聖騎士魔法Lv.6『エンシェントシールド!!』」
これも覚えたばかりのスキルだが、効果はある程度分かっている。
俺の前方に5枚に重なる物理と魔法を防ぐ盾を展開するスキルだ。
1枚1枚の壁が相当硬い筈なのにも関わらず、ルシフェルの攻撃でどんどん砕けて行く。
攻撃が止む頃には、俺の前に残されたのはひび割れて壊れそうな盾1枚だった。
「エンマ。もう覚悟を決めなさい。攻撃をしてでも止めないと私たちが死ぬわよ」
「分かった。でも、あと1回だけ試したい事がある。それを試してからで良いか?」
「貴方、一体何をする気なの?」
「ごめんな。また、俺は自分の体を犠牲にするよ」
さっきルシフェルに肩を噛まれた時、一瞬だがルシフェルの顔が穏やかになったのが見えた。
だから、もしかしたらもう一度攻撃させれば俺のことを思い出すんじゃないかと、ただの賭けだが、攻撃しないで止めるにはこれしかない。
「獲物。生存を確認。排除開始する」
今度は遠距離攻撃ではなく、今度は手を突き出しながら俺の心臓へと高速移動してきた。
「耐えるしかねえよな……」
俺は死ぬのを覚悟して、ルシフェルの攻撃を体で受けた。
ルシフェルの小さい手が俺の体を貫通していくのがわかる。
HPが減っていく。痛い。いや、痛みすら既にない。
これが死というものなのだろうか。
「ルシ……フェル。そん、なに、悲しい顔するんじゃねえ、よ……」
俺の心臓を貫いた時、ルシフェルは以前の顔に戻っていた。
俺を殺した罪悪感から思い出したのか、悲しい、今にも泣きそうな顔をしている。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
耳が壊れそうなほどルシフェルが叫ぶ。
もう一人の自分と戦っているのか、暴れだしていた。
俺はその光景を徐々に閉じていく目で見ることしか出来ない。
「エンマ!!ダメ……私を残して死なないで……お願い……嫌よ。死なないでよ……」
シズクが俺の近くにいるのがわかる。
手に伝わってくるのは冷たい涙。
「お前なら大丈夫だ」
俺は力を振り絞って目を開け、シズクに声を掛けた。
シズクの叫ぶ声が聞こえた。
だけど、俺の目は無情にも閉じていく。
閉じていく中で、眩い光が見えた。
目が閉じてしまう、最後の瞬間にかろうじて見えたのは、ルシフェルが羽根に包まれていくところだった。
そして、俺のHPは0になってしまった。




