97話 妹の為なら
ボス部屋まで歩いていた俺たち。
ルイスの後に付いていってるだけだが、妙なことがある。ルイスがまるで決まったルートを歩いているかのようだった。
以前と全く同じように作られているのだろうか。
だとすれば、ルイスの記憶力にもよるが、ここから最上階に最短ルートで行けるという訳だ。
「ルイスさん。もしかして、エデンの塔は攻略されてもボス部屋とかの位置って変わらないんですか?」
とりあえずこういうのは聞いてみるのが一番だろう。というよりも、聞かなければいつまで俺が考えても結論は出ない。
「うーん。そうだね。今までのほとんどの階層を見た限りだと、隠し部屋は所々違うけど、ボス部屋や固定の宝箱はそのままみたい」
「今までのほとんどの階層?」
どういう事だろうか。
ルイスは俺達が攻略している時に実は居たりしたのか?
いや、そうだとすれば目立つはずだ。
今は頭を隠していないが、基本的に全身を隠しているし、それよりも強さが目立つはずだ。
いや、攻撃しなければ案外バレないものなのだろうか。
「うん。僕は君たちが攻略した後に全階層を見ているよ。1から91までね。そして、1から90までは全階層、ボス部屋は同じだったから僕に付いてくれば最短で最上階まで行けるはず」
「待ってください。なんで急に私たちの攻略に手を貸そうとしたんですか?」
シズクが少しだけ怒りを露わにしている。
まぁその気持ちもわからなくもなかった。ルイスが戦闘に参加してくれれば、エデンの塔攻略で死んだ人が半数以上は救えた筈だろう。
「僕が手伝えば全員救えると思ったかい? そうだね。多分救えるよ。でも、そうすると君たちは強くなれなかった。というよりも、僕は僕の目的があって、この階層に来てくれる人を待ってたんだ」
この階層に来てくれる人を待ってた?
どういう事だ?ルイスは俺たちになにかを頼みたいのか?
「どうして、誰かを待ってたんですか?」
シズクがその勢いのままルイスに聞いている。
確かに俺も気になる点だが、その理由がエデンの塔で死んだ人を救えるほどの理由じゃなかった場合、俺たちはどう反応すれば良いのだろうか。
「そうだね。そこから話さないとダメみたいだね。その前に、一回ボス部屋の前まで行こうか。そろそろだからね」
ルイスの後を俺たちは無言で付いていく。
もはや、俺たちの中で少しだけルイスが疑わしい人物になってしまっている。
「さて、ボス部屋の前まで着いたし、僕はねこの階層に来る強くなった君たちを待ってたんだ」
確かにルイスの言う通り、ここまで来るにはある程度の強さがなければ来れないだろう。
でも、俺たちを待つ理由があるのか? ルイスは今まで俺たちを知らなかったはずなのに。
「ごめんね。君たちの心の中はどうしても勝手に読めてしまうんだ。だから、言葉は発しなくていいよ。僕だけ喋ろう。本音で話せば君たちから理解を貰えるかもしれないからね」
どうやら、ルイスは心を読めるらしい。
シズクも驚きを覚えているようだが、もはや俺たちは言葉を発していなかった。
「うん。そこの彼女は早く話して欲しいみたいだね。それじゃ、簡単に言うよ。僕はね、自分の妹を救いたいがために、君たちを待っていたんだ。妹と少しの間でも心を開いて仲良くしてくれた君たちをね。でも、ここに君たちが来てくれないと意味がなかったんだ。だから、強くなるまで待った。エデンの塔を攻略するの手伝わず、自力で登らせた」
シズクは怒っているようだ。でも、どうしても俺にはこの男の思考に共感出来てしまう。
妹や兄弟がいれば、誰しも救いたいと思うだろう。
そして、その為にルイスが思いついたのが、強くなった俺たちを使って妹を救うという方法だ。
ルイスはただ妹を救いたいだけだったのだ。
「そっか。君は共感してくれるんだね。ありがとう。でも、彼女は違うみたいだね」
「そうよ。だっておかしいじゃない! いっぱい死んだのよ!? 」
「そうだね。僕はたくさんの人を見殺しにした。でも、そうだね。彼女に今聞かせる言葉はこれだろう。『この世界での死は現実の死ではないとしたらどうする?』」
シズクは驚いているようだが、どうやら言葉は発せないようだ。
「まぁ、多分理解してくれただろう。それじゃ、君たちには半ば強制だけど妹を救ってもらう。もちろん、逃げるなら仕方ない。殺すだけだよ」
ルイスの笑顔が初めて怖く思えた。
でも、彼にはこのような選択肢しかないのだろう。
もちろん、俺はルイスに協力する。
それに、協力して91階層を進まないといつまで経ってもルシフェルとヒマワリを救えないしな。
「それで、どうすればいいんだ?」
「今は協力してあげるわ。でも、やっぱり私は一人を救うためにみんなを犠牲にするのは間違ってると思うわ」
「うん。それもそうだね。きっと、僕は間違ってる。でも、僕はどうしても妹が大事だったんだ」
ルイスは俺達が協力してくれるのを分かってから、ボス部屋の扉を開けた。
「それじゃあ、あとは頼むよ」
「ちょっと待ってくれ。ボスが妹なんだろ? 前回はどうだったんだ? この世界をクリアしたなら妹を1回救えてるんだろ?」
その言葉でルイスの体が固まった。
「……ごめん。その話はしたくないんだ。でも、一つだけ教えとくよ。91階層のボスを僕は何度も救えなかった。きっと、救えるまで、ボス。いや、僕の妹は復活する」
「ルイスさん。色々言ってごめんなさい。貴方も苦労していたのね……」
俺とシズクは何となく察した。
ルイスは、妹を攻略するために殺したのだろう。
でも、今復活しているということは、やっぱりルイスの言う通り救えるまで復活する。
いやでも、具体的に救うってどうすればいいんだろうか。
「救う方法については、最後は僕がやるから大丈夫。君たちには、僕の妹と少しでも心を通わせて欲しいんだ。一度通わせた君たちなら出来ると信じているよ」
ルイスはそれだけ言うと、背中から真っ白な純白の羽根を生やし、ボス部屋へと入っていった。
あとは俺達が入るだけだ。
「まさか、天使だったなんてな」
「そうね。私も予想してなかったわ。でも、天使は捕らわれてるんじゃなかったかしら?」
「さぁな。妹のために抜け出したんじゃねえか? なんとなくあの人なら妹のために何でも出来そうだし」
「それもそうね。とにかく、私たちは今からルイスさんの妹でもあり、この階層のボスと心を通わせればいいのよね」
シズクは簡単に言っているが、もしも、ルイスの妹が攻撃してきたらどうなるのだろうか。
91階層のボスの攻撃だし、相当な威力だろうし、俺たちだと耐えれるのだろうか。
「ルイスさんが天使だから、妹も多分……」
「そうね。多分……」
俺とシズクは考えてる事は一緒だっただろう。
そう、多分ルイスの妹も天使やその類だろう。
「さてと、先に行ったルイスさんのために行くか!」
「えぇ。行きましょ」
こうして、俺とシズクはボス部屋へと入る。
だが、何故だろう。
ボス部屋の中にはルイスは居なかった。




