95話 若い男
怪しい人を見つけた俺たちは、どんどん追いかけて行った。
何度か追跡がバレそうになったが、幸いにもその都度モンスターが現れてくれた。
もちろん、怪しい人はどんなモンスターも一発で倒している。
それも、武器も使わずに素手のみでだ。
「素手スキルはあるけど……ここのモンスターを素手って相当レベル高いんじゃ……」
「そうよね。でも、こんな前線に居る人で私たちが知らないなんてあるかしら? ここまで強ければ噂になってるはずよ?」
「ずっと隠れてたとか? いやでも、なんで91階層から動き出したのかも分かんねえしな」
「あ、動いたわよ。とりあえず追いましょ」
怪しい人の後を追いつつ、この人の情報を探ろうとするが、どうにも鑑定が上手くいかなかった。
鑑定スキルは相手にバレる危険性があるが、それを上回る情報が入るのだ。
もちろん、モンスターが居る時にしか使ってないが、3度ほど使って全て失敗というのは明らかにおかしい気もする。
「あいつ、キョロキョロし始めたわよ……」
「どっちに行くか考えてるんじゃねえか?」
俺たちの前には三方向に道が続いていた。
怪しい人は少しだけ考えると、右にある道を選び進んで行った。
もちろん、俺達も後を追う。
「あいつ宝も無視してるじゃねえか」
「もったいないけど、さすがに取りに行く時間もないし、なにか罠があるのかもしれないからやめておきましょ」
「そうだな。それよりもあいつが優先だ」
順調に追いかけていたが、俺のひとつのミスで全てが終わってしまった。
「あっ、やべ」
落ちていた石を蹴ってしまったのだ。
しかも、それが上手い具合に怪しい人に当たり、完全にバレてしまった。
「シズク。すまん。一応迎撃態勢を取っといてくれ。俺は相手の攻撃に合わせて相殺できるか試してみるから」
「えぇ。でも、あいつのレベルが高ければむりだとおもうわよ?」
「試してみなきゃ分かんねえだろ?」
俺達が話している間にも、男は自分の手にスキルを待機させつつ、歩いてきていた。
素手スキルは比較的に素手ということもあって弱い。だから、スキルを待機させながら走ったり歩いたり出来るのだ。
だが、今回の怪しい人に限っては別だ。モンスターを一撃で倒しているのを見る限り、俺の大剣スキルよりも素手スキルのが強いはず。
「おらぁ!!!」
俺は怪しい人が俺の大剣スキルの範囲内に入ったのを確認した後に、飛び出してスキルを放った。
だが、そんなスキルは意味なかった。
俺の大剣はなにもスキルを使っていない手で抑えられ、俺の腹めがけて素手スキルを放たれた。
「ガハッ……!」
一撃で吹っ飛び、口から内蔵が出るかのような感覚を味わいながら壁へと吹き飛ばされる。
俺のHPは一発でほぼ瀕死だった。
「エンマ!!!」
「シズク!ダメだ!降参しろ!こいつには勝てねえ……」
「そう、みたいね……」
俺はボロボロのまま立ち上がり、剣をその場に置き、両手をあげた。
シズクも両手をあげ、俺たちは降参した。
だが、これであいつが攻撃をやめるとは限らない。
俺の足元はフラフラで立つのもやっとの状態だ。結局攻撃されれば俺とシズクが死ぬのは明白だった。
もはや目を閉じて諦めるしかなかった。
「驚いてつい攻撃しただけだ。目を開けて回復してくれ」
俺はその言葉を聞いて目を開けて回復薬を取り出して回復した。
どうやら、本当にこの人に攻撃する気はないようだ。
「殺すつもりで攻撃したが、生きてて良かったよ」
怪しい人はフードを取り、俺たちに顔を見せた。
それを見て、俺が思った事がある。
若い男だと。本当にこんなやつは知らなかった。見たこともない。
どうしてここに居るのかも分からなかった。
「そっちの子も手を下げてくれ。何もする気はないんだ」
「はい。ありがとうございます」
シズクは言われたとおり、手を下げ、俺の元へと駆け寄った。
「それで、僕の後を付けてたってことは、なにか聞きたいことがあるんだろ? 例えば、僕みたいなやつは見たことないのに、どうしてこんな所に居るのか。とかな」
この男は鋭かった。
いや、鋭いというよりも、心を読むスキルを持っているのかもしれない。
ならば、もう躊躇もせずに全てを聞くとしよう。
「それじゃあ、全部聞いていいですか?」
「あぁ。でも、その前にさっきの音に集まったモンスターを倒してからにしようか」
いつの間にか集まっていたモンスターは俺たちを囲んでいた。
「エンマ。私がこっちの敵を殺るわ」
「任せたぞ。俺は前の三体を殺る」
「いや。君たちは動かなくていい。僕がすぐに片付けるから」
俺たちは初めて目の前で瞬殺というものを見た。
これがこの男の本気なのだろうか。
男は、俺たちの目の前でほんの5秒ほどで8体ほど居たモンスターを殺したのだった。
新キャラでましたねーヽ(*´∀`)ノ




