94話 新スキル
エデンの塔へと二人で入り、俺たちは探索を始めた。
91階層はこれといってあまりいつもと変わらないエリアだ。
だが、やはり出てくるモンスターは明らかに強そうなやつばかりだった。
「『オーディン・ナイト』か、厄介そうだな……」
「そうね。でも、幸いにも一体だから連携して戦えば余裕だと思うわ」
「それじゃ、安定の援護宜しくな」
「えぇ。任せてちょうだい」
『オーディン・ナイト』
HPなどは低めだが、防御力と攻撃力に長ける相手だ。
それに、鑑定によれば魔法もある程度使えるらしい。
やはり90階層付近の敵は強くなっている。
「その頭から砕いてやるよ!剣技スキル『アーマーブレイク!!』」
まだギリギリこちらを視認していなかった敵に対して俺は不意打ちで脳天へと剣技を叩き込んだ。
不意打ちの攻撃はクリティカルヒットし、相手のHPの5分の1程度は減らすことが出来た。
「シズク! 魔法頼む!」
「分かったわ!『魔力増大有効化』炎雷魔法Lv.4『フレイム・サンダー!』 」
シズクの魔法が怯んでいるモンスターへと直撃し、さらにHPを減らす。
そして、もう一度怯んでいる今なら無傷でこいつを倒せるだろう。
「…………『眷属召喚』」
俺が攻撃しようとした時、ボスでもないモンスターが自分のピンチに眷属を召喚した。スキル発動時の声自体はなく、モンスター自体の頭の上にスキルの名前が出ていた。
自分の目の前屋召喚する事により、俺の攻撃は阻まれ、さらには2体の『ガーディアン・ナイト』が現れてしまった。
「2体とも、そこまでの強さはねえか……」
召喚された二体はそれほど強くはなかった。
精々60、70階層レベルの敵だ。
だが、オーディン・ナイトがいるのが問題かもしれない。
どうやらあいつは回復も使えるようで、今既にさっき与えたダメージをほとんど回復している。
「91階層から強くなりすぎだろ」
「それほど攻略されたくないってことよ。きっとね」
シズクが俺の元へと呑気に歩いてきた。
近くに来たということはなにか作戦があるのだろうか。
「ねぇエンマ。あの二体は私に任せてちょうだい」
「いや、でもお前近接で戦えんのか?」
シズクは魔法を使っているはずだ。
二体の眷属はあまり強くないとはいえ、魔法しか使えない人が近接に持ち込まれれば負けてしまう。
「甘く見ないでちょうだい。私だって、エンマを追いかけながらスキルを覚えてきたんだから」
シズクはドヤ顔で俺へと言ってきているが、俺も同じだった。
シズクと離れ、俺もエデンの塔へと向かいながらあるスキルを覚えていた。
近接をする上で確実に必要なスキルだ。
それは、『武器スキル』
短剣や長剣、レイピアのような細剣、それに加え片手斧などのあらゆる武器にスキルが追加された。
ようやく最近追加されたらしいのだ。未だに運営からのお知らせという項目の元、この世界はアップデートされ、スキルは追加されていく。
まぁ、堕天使が楽しむために追加しているだけだろう。
だが、それを有効活用させてもらう。使えるものは使わないと勿体無いしな。
「ま、とにかくエンマはオーディンナイトを倒してちょうだい」
「そんだけ言うならやってやるよ。それで、お前はなんのスキル取ったんだ?」
「見てなさい」
シズクは俺の前で腕を一回振った。
上から下に一回振っただけだ。なのに、シズクの手には薄く透き通った短剣があった。
「なんだ、それ」
「これはね、『魔法の武器作成』というスキルよ。それで、ついでに短剣スキルも取ったから、近接も戦えるってわけ」
「へぇー。そんなスキルもあんだな。でもまぁ、お前の強みはその魔法の威力にもあるから、隙を見て魔法を撃った方がいいと思うぞ? 近接に頼りすぎねえようにな」
「もちろん。分かってるわよ」
「それじゃ、任せたわ」
「えぇ。余裕よこんな敵なんて」
シズクを信頼し、俺は二体の敵を任せる事にした。
これで俺はオーディンナイトと戦えることになる。
「さてと、それじゃ実験台になってもらうぜ」
二体のガーディアンナイトの注意をシズクが引き付け、俺はオーディンナイトへと自分の新しく手に入れた剣スキルと両手剣スキルを試す。
俺の武器は、性質上、剣と大剣の性質を持っている。だから、2つのスキルが使えるわけだ。
「大剣スキル『シュヴァリエ・エッジ!』」
横薙ぎに剣を振り、その後に下から切り上げる攻撃だ。
この技は威力は低いが、相手を怯ませやすいスキルだ。
「よっし! 怯んだな! 長剣スキル『エレメンタル・ノヴァ!』」
さっきのスキルの影響で、モンスターは怯んでいる。
その隙に自分にも隙が出来る高威力のスキルを放った。
エレメンタルという名前の通り、この技はスキルはある程度魔法が使えないといけない。
まぁ、俺自身が普通に魔法を使えるため問題はないが。
「――――――!!!」
言葉にならない叫びをモンスターはあげ、その瞬間にモンスターはなんらかのスキルを放ってきた。
見た感じ剣技スキルのようだが、それならば相手のスキル以上の威力をもつスキルを俺が放ちもう一度相手の体制を崩す。
「剣技スキル 『バル・ムンク!』」
俺の剣が光り輝きはじめた。
俺はその剣を振り下ろし、光の斬撃を飛ばした。
もちろん、モンスターに防ぐ術はなく斬撃は直撃した。
「これで終わりだ!!!大剣スキル 『メテオ・インパルス!!』」
まるで斬撃の中から現れたかのように、俺は飛び出し、モンスターの弱点である頭を狙った。
俺のスキルが当たり、モンスターはエフェクトとなって消えていった。
「ふぅ。無傷で勝てた……」
「やったわね。ま、私も余裕だったけど」
シズクも見る限りの傷はなかった。
2対1でほぼ無傷なら相当凄いかもしれない。
「それじゃ、先に進むか」
「そうね。今回はちょっとスキルを試しすぎたわ」
俺たちは新しく覚えたスキルについて二人で話しながら進んで行った。
そして、突き当たりを曲がろうとした時、誰かがモンスターと戦っている音が聞こえてきた。
「シズク。止まれ。誰か戦ってる」
「そうみたいね。でも、助けに入った方がいいんじゃない?」
「とりあえず様子見てみるよ」
俺が少し顔を出し、様子を伺うと、そこには黒いローブを着て、頭も見えないように隠している誰かが居た。
そいつは圧倒的な強さでモンスターを倒している。
「やべえ奴がいるぞ。俺も見たことねえくらい強いぞ。モンスターをほぼ一発で倒してやがる」
「ほんとに? 前線にいる人でここのモンスターを簡単に倒せる人なんて居る?」
「分かんねえ。とりあえず、隠れて様子を伺っといた方が良いかもな」
「それもそうね。バレないように追跡もした方が良いかも。もしかしたら敵かもしれないしね」
「そうだな。ちょうど動き出したし、追ってみるか」
こうして、91階層に居る謎の人物を見つけた俺たちは様子を伺いながら後を追うことにしたのだった。




