おびとげた
いつもより長くなりました。
かんこどりがみせの奥に入って行った後、赤月が木の板の前にあった何かに座る。赤月は手をクイクイと曲げて小望をよぶ。赤月の前にいくと持ち上げられてひざの上にのせられた。
「みせ、おくみえない。」
「俺も奥がどうなってんのか知らねぇなあ。まぁ、気いつけろよ。」
赤月が小望のあたまをぽんぽんした。小望は小首をかしげる。
「閑古鳥はなんでも商品にするかんなあ。小望も売られねえように気をつけとけや。」
赤月がにやりと口のはしをあげた。「しょうひん」や「うられねえ」がなにかわからないまま小望は頷いた。
「もってきたヨォ。」
奥からかんこどりがぬっとあらわれる。木の板をはさんで赤月がむかいあった。
「スキなの選んでネェ。」
かんこどりが下をむいて口をあける。たくさんの布やなにかが木の板の上にぼたぼたとおちた。
「閑古鳥、お前口の中に入れて運ぶのどうにかしろよ。」
「ボク手が無いしナァ。」
赤月が言えばかんこどりがつばさを見せるように、ひろげたりとじたりした。
「小望、好きなん選べ。」
赤月のひざにのったまま木の板に並べられた布をみる。きらきらしたもの、しろ、きいろ、みどり、ふわふわしたものや、重そうなものまでたくさんあった。かんこどりがくちばしで並べていく。
「この帯は千年蜥蜴の鱗を使っていろっけしたものダヨ。これは満月の晩に月の映った泉で100年間つけた帯ダネェ。」
かんこどりが説明する。
「これとかおもしれえな。」
赤月が白いふわふわした布を手にとる。布から手がすけてみえた。
「それは珍しい赤い百合でそめたやつだね。今は白く見えるけど、血の気配を感じると赤くなっておもしろいヨォ。」
「それ。」
「あ?これにすんのか?」
うなずく。赤月がかんこどりにぬのをわたした。
「これくれ。あとついでに帯も結んでくれや。」
「ハァイ。」
かんこどりが白い布をくわえた。木の板をとびこえてこちらがわにくる。赤月が小望をひざからおろしてたたせた。
「紅も、帯のムスビカタ覚えた方がいいヨォ。」
「あ?」
「こも、結べないデショ?」
かんこどりが器用に布を小望に巻きつける。赤月が「うるせえな」といった。
「紅、こもに下駄もドォ?」
「あぁ?下駄だあ?」
巻きつけおわったかんこどりが言う。
「こも、カラダ小さいからよわいヨォ?すぐケガすると思うナァ。」
「小さくても鬼だろ?そんなに傷おうかよ。」
かんこどりが小望のあしを足でつかんだ。少し、いたい。
「ホラ、こんだけで赤くなるヨ。」
かんこどりがうでをはなす。つかまれたうでが赤くなっていた。
「人の子みたいなよわさダヨ。ボクこんな鬼商品にしたことあるから知ってるんだよネェ。裸足じゃとても歩けないヨ。」
かんこどりが首をかしげていった。
「かんこどり、次したら殺すぞ。」
「怖いナァ。こも、いたくしてごめんネェ。」
赤月の声が低くなった。小望はかんこどりにうなずく。
「下駄ももらう。」
赤月がつぶやいた。ふところから折った角二本をかんこどりになげる。かんこどりはパクッとたべた。
「それでたりるか。」
「ウン、たりてるネェ。ア、でも下駄の分に小望にまいてた紅の髪、もらってイイ?」
「すきにすりゃあいい。」
「ヤッタァ。」
かんこどりはつばさをパタパタさせてよろこんだ。そのままくちをあけて何かをだした。カランコロンとじめんにころがる。
「はい、下駄ァ。」
げたとよばれたものに足をとおす。赤いひもがついていた。
「こも、よくにあってるヨォ。」
かんこどりが黒く光る目をほそめた。赤月が小望を抱き上げてかたにのせる。
「用はすんだ。帰る。」
「まいどありィ。」
赤月がみせをでる。
なぜか行きよりもゆっくり赤月はあるいた。