かんこどりのみせ
赤月がむらを歩く。いえのあいだを通ってすすんだ。むらはとてもしずかだ。
「あ?人がいねえなあ。こりゃあ角折らなくてもよかったか?」
赤月があたまをかきながらつぶやいた。
「いえにひと、いない?」
「いねえな。」
赤月がちかくのいえを、のぞきながら言う。
「まあ、いいか。むしろ好都合だ。おい、小望、店っぽいもん探せ。」
「みせ?」
「物売ってるところだよ。」
「うってる?」
赤月は「あぁ」と上をみて言う。
「ここらにある家とちげえやつ見つけたら言えばいい。」
小望はうなずいた。それならわかる。小望は赤月の肩からぼーっといえをながめた。とおくにすこしちがう形のいえがある。
「赤月、あれ。」
つのをかくしてた手をおろして赤月のあたまをたたく。
「あん?ああ、行ってみっか。」
赤月が小望のさしたほうこうを見ながら言った。足をすすめる。
いえのあいだをぬけて、すこしちがう形のいえの前にでる。
「小望、正解だ。こりゃあ店だな。閑古鳥が鳴いてらぁ。」
これがみせ、と小望はおもった。耳をすませてもなにもきこえない。「かんこどり」のこえはとても小さいのかもしれない。
赤月は「みせ」のなかにはいった。
「いらっしゃいマセェ。」
中はとてもひろい。黒くて大きい鳥が1匹、木の板のむこうがわにいた。
「よぉ、閑古鳥。」
赤月が少し手を上げて言う。「みせ」の中は外でみた大きさより広い気がした。おくは暗くなっていて、かべがみえなかった。
「ヤァ、紅、君が来るなんて珍しいネェ。」
赤月ほど大きい黒い鳥もかたほうの羽をあげてこたえた。赤いくちばしがパクパクとあいたりとじたりする。
「ソチラのお嬢さんはハジメテみるネェ。」
鳥が、首をかしげて小望をみる。黒い目が小望をうつした。
「妹だ。」
「イモウト?鬼にキョウダイなんてできたッケェ?」
鳥が赤月と鳥のあいだにあった木の板のうえにとびのった。そのまま小望をのぞきこむ。黒い大きな羽がつややかにひかった。
「兄弟名をつけたからな。」
「ヘェ。兄弟カァ。」
鳥はハハハと鳴いた。笑っているのだろうか。鳥の目に感情はうつらない。小望にはわからなかった。
「ボクは閑古鳥ダヨ。ナーンデモ売ってるお店をやってるヨォ。ボク鳴いてるところはゼーンブ、ボクのお店につながってるノサァ。」
「君の呼び名をオシエテェ?」と閑古鳥が首をかしげる。
「こも。」
「こも、良い名前だネェ。」
閑古鳥の首がくるっとまわって赤月をみる。
「ソレデ、紅はなにしにきたんダィ?」
「小望の帯を買いに来てな。」
「ソレ、紅の髪の毛で止めてるノォ?」
閑古鳥が小望をみて首をかしげる。「あぁ」と赤月がうなずいた。
「フーン。ア、もってくるヨ」
閑古鳥が木の板をこえて、「みせ」のおくにいく。おくにいくほど暗くなって閑古鳥はみえなくなった。