かたにのって
赤月は小望をかたにのせてあるく。ゆらゆら、かたにのるのもなれてしまった。どうやら、やまをおりているらしい。
「小望、振り落されんなよ。」
赤月がつぶやく。大きく踏み込んだ。赤月が前へとぶ。小望の体がはねた。赤月が左手で小望をおさえる。急いで赤月のかみのけをにぎった。
わはは、と赤月が笑いながら進む。けしきはぜんぶ線になった。めがまわる。おしりがなんども宙にういた。
「う、ああ。」
「口、締めとけよ。噛むぞ。」
がちんと口をとじる。したをかんだ。
「っ…!」
いたい。みょうな味が口にひろがる。あんまり美味しくない、とおもった。
赤月がきゅうにとまる。小望は髪を握ったまま放り出されそうになった。赤月がひだりてでおさえる。
「いってえ!」
赤月が小望をみる。
「小望、髪ひっぱんな。」
赤月がうめいた。ぱっと小望は手を離す。そのままじめんにおろされた。
「おら、着物を着直せ。」
赤月がぬげかけたきものをなおす。おびがないからまた前がはだけた。赤月はじっと小望をみる。なにか思いついた顔をして、赤月は自分のかみのけを一本ぬいた。
「これでいいだろ。」
おびのかわりに赤月のかみをおなかにまきつけられた。赤月の着物とくらべるとすこしちがう。赤月のほうがまとまってみえた。
「あとは角をかくしとけ。」
「つの。」
ひたいをさわる。にほんの小さいつのをりょうてでかくす。
「…まあ、いいか。」
赤月はびみょうなかおをした。小望はすこし首をかしげた。
「あのむらにいく。」
やまのうえから赤月がいう。小望ははじめてむらを見た。へんなかたちの木がぽつぽつたっている。
「へんなき。いっぱい。」
「あ?木なんて村にねえだろ。」
「あれ。」
ゆびでさす。赤月はゆびのさきをみておもしろそうな顔をした。
「ありゃあ家だ。」
「いえ?」
「ああ、人が住んでんだよ。」
赤月が小望をなでた。小望はだまってそれをうけいれた。
「まだ、鬼と知られちゃあ都合が悪いかんなあ。」
そう言って赤月は自分の角を折った。ぼきりとおとがなる。かみのけのあいだからつのは見えなくなった。赤月は折った2本の角をふところにいれた。
「小望も、おったほうがよい?」
小望がきけば赤月がすこし目をおおきくした。
「いらねえよ。小望の角は短いから折れねえんだよ。」
「わかった。」
赤月は小望をまたかたにのせた。大きく踏み込んでとぶ。いっきにむらが近くなった。
「おら、角隠すの忘れんな。」
どんっ、とおりたった赤月が歩きながらいう。小望はいそいでつのをかくした。赤月の足があったじめんはすこしへんこでいた。
赤月はいえの見えるほうに歩いていく。小望ははじめて、むらにはいった。