はじめてのけしき
「おい、おきろ。」
声がきこえて目をあける。まぶしくて、目を細めた。前にあるのが「てつごうし」じゃない。自分が「ひかり」のなかにいることにおどろく。かわがきらきらひかって、木がざわざわしてる。ああ、そういえば「そと」にでたんだ。
「なにぼうっとしてんだ。」
と声がきこえて、うしろからだきしめられていることに気づく。そうやってねたのを思い出した。
「赤月。」
兄になった鬼の名をよぶ。「ひかり」の中だと赤月がよく見えた。赤い着物には金色でもようがつけられていた。夜はきづかなかった。
「あんだよ。」
見上げれば赤月のかおが見える。黒くてながいかみは「ひかり」できらきらしてた。2つの角が髪の毛のあいだからみえた。黒い目には長いまつげがついてることに気づく。きれい、とおもった。
「じっとみて、どうした?」
赤月が小望をのぞきこむ。黒い目に誰だれかがうつる。小望だと気づくのに少しかかった。なんでもない、と首をふる。
「なんもねえのかよ。」
赤月は小望のわきに手を入れて立ち上がらせる。ふらふら小望は立った。赤月は立ち上がって小望をみて、眉を寄せた。
「立つのへただな。」
赤月がぽそりとつぶやいた。小望は立つのがへたらしい。
「立ったことなかった。」
と、小望が言うと、そうか。と赤月が返す。
「小望の服、取りに行くぞ。」
パンパンと土を払って赤月が言う。そのまま小望を抱き上げて肩にかつぐ。
「赤月。」
「あんだよ。」
「けしき、みたい。」
「うるせえな。」
文句をいいながら赤月は小望を肩に座らせた。かたほうの手で小望がおちないようにささえる。
「とても、たかい。」
「あ?また文句か?」
「ちがう。」
首をふる。赤月の上からみると、なんでもみわたせる気がした。花も、草も小さくなった。木のたかさにちかづく。赤月が歩き出すとまわりのけしきが、うしろにむかってうごきだした。
「赤月はおおきい。」
「あ?」
小望がつぶやくと赤月が歩きながら言う。
「そりゃ、小望が小せえからな。」
「小望、ちいさい?」
「鬼とは思えねえくらい小せえな。人の子みてえ。」
赤月が一歩ふみだすと、たくさんの木がうしろへながれていく。とても早い。
「小望、ひとからうまれた。」
兄がいっていた「とうさん」も「かあさん」も人間だと。だから鬼がうまれて「むら」からみんなさけられた、と。
「は?お前人から生まれたのか?」
赤月がとまってきく。小望をみる目は大きくひらいていた。
こくり、とうなずく。
「そりゃ、すげえ。おまえの母親はよっぽど欲に塗れた人間だったらしい。」
赤月がおおきな声でわらった。
「どうりで小せえ訳だ。」
小望にはよくわからない。
「おもしろい!小望、お前を妹にして正解だった。」
赤月が心のそこからうれしそうにいう。
小望は赤月のえがおをみていた。
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