いつもとちがうよる
よんでいただけたらうれしいです。
今日もいつもと同じよるのはずだった。ちがうのはいつもより少しだけ月が赤かった。
この山には鬼が出る。と兄が言っていたのを思い出す。その兄はいま頭をつぶされてころがっていた。
「俺の山でうるせえんだよ。」
これが鬼だろうか。赤い着物を着ている、髪の長い男だった。いつものように兄が「てつごうし」をけってわめいていたら兄よりもとても大きい赤い着物の男があらわれて、兄のあたまをつぶしてしまった。とびちった赤いのが、きれいだなとおもった。かいだことのない、へんなにおいがした。
「なんだよこれ、なんでこんなもんついてんだよ。」
鬼が「てつごうし」をにぎって横にひっぱると「てつごうし」に穴があいてすぐに通れるようになってしまった。兄が毎日けってもゆがみもしなかったのに。
「お前、人間じゃねえな。鬼か。」
わたしも兄のようにあたまをつぶされるのだろうか。それでもいいかと思ってるおにがいた。
「鬼のくせにやけに小せぇなあ。」
じろじろと見られる。おにはちいさいのだろうか。ちょっとこっちへこいと、ひっぱられる。足がもつれてこけた。起き上がろうとする。よろよろと立ち上がった。鬼は不思議そうにじっとおにをみて、おもしろそうにわらった。
「おまえ、名はなんていうんだ。」
「な?」
「な」ってなに。兄も言ってなかった。鬼はまゆをよせる
「なんてよばれてた。」
「おに。」
「なるほど。」
鬼はむずかしい顔をしてだまりこんだ。鬼の長いかみのけがすこし前におちた。兄とおなじ黒なのに鬼のほうがきれいだなとおもった。鬼はおにをみてぱっとわらった。
「おまえ、家族はいるか?」
「かぞく?」
「父、母、姉、兄、弟、妹、だ。」
「兄は、いる。でもつぶされた。」
兄をみる。さっきまでうごいてたのに、うごかないのが少しふしぎだった。
「そうか、なら居ねえんだな。」
鬼はさっきよりも笑顔になった。なんで笑うのか、おににはわからない。
「父は柄じゃねえな、女じゃねえし、兄だな、兄。よし、俺がお前の兄になってやらあ。お前、名も持ってねえみてえだし、ちょうどいい。名もつけてやろう。」
「あに?」
おによりずっと大きい鬼がしゃがみこむ。おにの目をみた。
「名を妹紅、呼び名をこも、兄弟名を小望。」
鬼の目がパチッと光って、おにの何かがかわった気がした。
「これでお前の名は決まった。俺の名は紅鬼。呼び名は紅。さあ兄弟名をつけろ。」
「兄弟名?」
「お前だけが呼べる名だ。」
きょうもいつもと同じ日のはずだった。ちがうのはいつもより少しだけ赤い月。赤い月が鬼をよんだんだとおもった。
「赤月」
鬼はにかっと笑った。
「よろしく、兄弟。」
今日、おには鬼と兄弟になった。
ありがとうございました。