ももはあまい
ほのぼのになってると良いなと思います。
チュンチュンと鳥がないている。ゆっくりと目をひらく。あさひがまぶしくて目を細めた。
「ん?ああ、起きたか。」
赤月の声が聞こえる。こくりとうなずく。
「ちょっと待ってろ。」
そう言って赤月は小望をはなした。あたたかい気配がはなれる。少しさむいとおもった。よっ、と言う声をあげて赤月が上の枝にとんだ。見上げるほど高いところにある枝に着地する。そのまま葉にかくれて見えなくなった。
赤いきものがひるがえって、きれいだなと思った。
赤月が見えなくなって小望は自分をみる。足をうごかせばカランとげたの音がなる。げたの音は良いと思った。
カランカラン
小望は赤月にめいわくかけたい。どうしたらかけられるのだろう。
カランカランカラン
「楽しそうだな。」
赤月が丸いものを持って目の前に立っていた。
「げたの音、いいとおもう。」
小望がいえば、赤月が「そうか」と返した。赤月が小望をかかえてすわる。すっぽりと赤月におさまった。「ほれ」と丸いうすももいろのものを小望にわたした。うすく毛がはえていて、ふわりとにおいがした。
「食ってみろ。」
赤月がそういって丸いものにかみついた。小望もかじる。やわらかかった。じゅわりと丸いものから血がでてくる。
「甘いだろ。この桃は特別甘ぇ。」
「もも、あまい。」
赤月がかかかと笑う。この味はあまいというのだと小望はしった。ももの血はあまい。
「はじめてたべた。」
「うめぇか?」
「うん。」
かじってもかじっても、ももの血はとぎれない。小望ははじめておいしいとおもった。
「ねずみとちがう。」
そう小望がつぶやけば、赤月があきれた顔をする。
「鼠なんかくってたのか。」
こくん、とうなずく。
「ねずみよりおいしい。」
「そりゃよかった。」
そう言って赤月が小望のあたまをなでた。あったかくてあまくてきもちいいとおもった。
小望は赤月にとてもめいわくをかけたいと思った。
「赤月。」
「あ?」
「めいわくってなに?」
考えてもわからなかった。
「嫌なこととか、面倒くせえこととかか、手間のかかることとかか?」
赤月はももをたべながら首をひねった。
「いやなこと、なに?」
「退屈なこと。汚れること、うるせえやつ。あとは、思いつかねぇな。」
よごれること、うるさいやつ。赤月はきれいだ。よごすのはもったいない気がした。
「赤月。」
「あ?」
カランカランカラン
げたを鳴らす。
「あんだよ。」
赤月がすこしわらった。
「赤月。」
「なんだ?」
カランカランカラン
赤月が笑いながら聞く。
「うるさい?」
「うるせえな。」
赤月が小望の頭をなでた。
「めいわく?」
「あぁ、迷惑だ。」
赤月がわらっている。
カランカランカラン
下駄の音がなっていた。