同じだった物語
みんなに朝食を上げている途中、奥の部屋から大きな物音がした。何かを殴るような、痛々しい音。
「ふざけないで!あんたなんか知らないわ!」
「んなもん知るか!」
男と女の言い合い。俺は静かに、部屋とリビングを繋ぐ襖を閉める。
ドタドタと大きな足音と共に、女の怒鳴り声は玄関の方へ行く。
その時に、ふとしたタバコのにおい。
「!散歩行かなきゃ。」
ボソリと、向こう側に聞こえないように呟いて、動物たちにリードやら何やらを付ける。
猫のジャンプにハーレという、猫用のリード。犬のダッシュにもリードを付けて、インコのアオグには足を紐でくくり、自分の手首と結びつける。トカゲのノボルは木の枝が入った虫かごに入れて。
静かに部屋をでる。
長くもない廊下が、緊張感と焦りで長く感じる。いつも走り出すダッシュも冷静にわかってくれる。
猫のジャンプは、俺に跳びかかってきた為、腕に抱える。
玄関の扉をゆっくり開けて、閉める。外に出た途端に襲ってきた安心感。
よし、とため息交じりに呟いて走り出す。
五階の階段から一階まではかなり辛いが、ダッシュが走っていくのを追いかけるので精一杯で、一階についても休んでいる暇がない。
マンションの駐車場から抜けたと同時に、ジャンプは腕から降りてダッシュを追いかけるように走る。、一車両分程度しかない道の横断歩道を、ダッシュとジャンプを追いかけるように走る。アオグは飛んでくれるから肩は楽。ノボルを手に持って揺らさないように気を使いながらは、本当に疲れる。
でも、風が通るようでノボルは気持ちよさそう。
ぐねぐねと網目の道を、器用に走っていると、川沿いの塀が見える。そこを沿っていくと、川辺の公園の入り口に差し掛かる。
川辺の公園は広く、サッカーや野球のコートがある。子供が遊べる公園もあり、人も多く訪れる。流れている川は流れが緩やかで、水深が一メートルほどで、中学生などは遊ぶことが多い。
そして、毎朝の散歩でここに来ては、みんなを遊ばせる。
ダッシュとジャンプのリードを離して、柵のあるドックランに放す。ダッシュはまだ疲れていないようで、ほかの犬と走りまわる。ジャンプは小さなトンネルの中で丸まってしまった。
アオグを肩に乗せたまま、川から流れる小さな池でノボルに水をかけてあげる。
俺は近くのベンチに座って、ノボルとダッシュとジャンプの様子を見る。
アオグは、膝の上や肩、ベンチの背もたれなどを行き来して、暇をつぶす。
いつも通り。ボーっとしていると声をかけられた。
「功舞!」
「あ、成弥。」
短髪の似合う、ユニフォームをきた男子。学校のクラスメイトだ。
唖届 成弥。
「どうしたの?朝早く起きれたんだね。」
笑いながら言うと成弥はムッとした。
「なんだよ~ 嫌味か? 俺だって起きるときは起きる!」
「平日に起きないじゃん。」
「あ、明日は起きるよ!だってほら、明後日終業式じゃん?」
そう。彼の言う通り。明後日は学校の終業式。明々後日からは夏休み。
「あぁ~ 宿題沢山あるかなぁ。嫌だなぁ~、なぁ功舞!算数教えて!得意だろ!?」
横に座る成弥は手を合わせて頼む!とねだってくる。
「得意ってものでもないんだけどな、、でも、成弥は理科のほうが苦手じゃなかった?」
「だって、、功舞は理科どうかしらないから、、」
「まぁ、教える分には問題ないけど、分かる分はやれよ?」
「!やってくれるのか!」
「まぁ、教えるだけね。あれ?今、七時程度だよね?朝からユニフォーム着てどうしたの?」
ふと疑問に思ったこと。
「今頃!? いやぁ、レギュラーになったから、自慢しようと思って!」
「汚したら自慢どころじゃないと思うけどな。」
「あ!そっか!」
2人で笑いながら話をする。
それが学校じゃなくても同じ。いつも1人でみんなを見てるが、たまにはこうやって話をするのも悪くはない。
「あ、成弥。俺そろそろ帰るわ。」
軽く話し込んだ後、腕時計を見てベンチから立った。
「おう。そうか!また明日な!」
「うん。」
成弥も立ち上がり、手を振ったあと、川沿いの道をランニングペースで走る。
俺はノボルの元へ歩く。その時、
「お前、動物好きか?」
その言葉で、同じだった毎日が変わった。