ちょっとな物語
学校に着いた。
門を入って昇降口へ、下駄箱の所ではシーンと静まりかえり、階段を上がっている状況では各階から授業の声。
「さすがに遅すぎたかな。」
そんな感じで目的地へ。
「遅れました。すみません。」
ドアを開けて、皆の視線が集まった。
「麻原君!大丈夫?事故にあったのかと、心配したんだよ。」
担任の小梢先生は、とても穏やか。
男なのに、威張るような柄ではなく、お母さん的存在。
「すみません。体調が悪くて、」
「そう。それなら良かったんだけど。あ、でもよくないね。調子が悪かったらすぐ教えてね。」
目線を合わせるためにしゃがむ先生。俺はその行動にとても歪な気持ちを抱く。
軽い返事をして席に行く。後ろの席では成弥がニヤニヤしていた。
「・・・なに。」
「い~や~。お前、調子悪いってウソだろ。」
ぎくりと体が揺れる。
「なんで、」
「なぜなら、お前からあの猫のにおいがしない!」
「・・・は?」
想定外の言葉に肩を落とす。
「だって、お前調子悪い時でも来るの早いじゃん。それに、気分が悪かったりしたらお前、猫に抱きついて服も頭も毛だらけで、なんか獣臭くなるんだ。」
具体的で細かな理由。
「で、俺はどうしてた、と?」
「んなもん知るか。俺は調子悪いのウソだろと言っただけだ。」
「あぁ、そうだったな。」
ふと、窓の外の景色に目が留まる。
ベランダの手すりに止まるスズメ。そのスズメが、俺をジッと見てる気がした。
ただ、怖くて、
目をそらすしかできなかった。
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キーンコーン
二時間目終了の鐘が鳴る。
乱暴にドアを開ければ先生が肩を震わしそそくさと出て行く。
教室では頑張って視線をそらす方と、キラキラとした眼差しで見てくる方で別れた。
無言で自分の席に座る。
「リ~t((ガンッ
金髪で青いバンダナの奴がふざけながらやってくる。
ウザいと余計なことを言うと思ったので、机を蹴る。
「あ。ごめんごめん。里川さん、機嫌悪いね。」
あたしの席の前がわの椅子に座り頬杖をつく。
「別に。変わんなくね?」
「はぁ、ほいっ。」
ため息をつくミカは、何かを投げる。
「!」パクッ
それが何かすぐにわかったあたしはそれを口でキャッチする。
「クス 歯、かゆいんだろ。」
「ムス 別に。これがないと落ち着かないだけだし。」コロッ
膨らむ片方の頬には飴玉。
「牙はちゃんと研いでおいてもらわなきゃ。」
「ハッ、それを人間は犬歯と呼ぶんだよ。猫なのに。」
「さっすが、名前に理がついてるだけあるねぇ~」
嫌味たらたらな会話も、途切れるのは遅くはなかった。
「あたしの里川は里だ。ばぁか。」
「・・・漢字って難しいね。」
「英圏方面よりはマシじゃね?」
「そか?」
周りから見ればただのコントとなってしまう。
「あ。」
ベランダの、手すりに止まっているスズメ。
私は見つけたと同時に声を漏らした。
「気付いた?で、何だって?」
ミカもスズメを見つめながら言う。
あたしも、目線はスズメ。
「………‥・・・“ごめん。テレビ止まった”だって。」
「・・・」
「・・・」
「マジで?」
「はぁ~、どうせ回線弄ったんでしょ。それか電気代が危ういか。」
「しゃーない。家で見るか。」
「そうしろって言ってんだろいつも。」
そうこうしているうちに数学担当教師の福井が来た。
「寝よう。」
「センセー!見竹君が寝る気満々で~す!」
先生に大声でチクれば焦るミカ。
「え、リト!」
「ミカぁ、学校ではその呼び方やめろつったろぉ?」
小声での会話。
「見竹君。そこ僕の席。」
「え!あ、ごめん!」
「せいぜい寝ずにな」
「こんのぉ~!」
今日も一日、ちょっと賑やかで、ちょっと退屈で、ちょっと不思議な学校生活。