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犬というものは

作者: 立待ち

 犬というものは、誇りを持たねばならん。

 それがどうだ。お前たちはいつもいつも腹を見せては媚びを売るばかり。

 誇り高く生きる、狼とは大違いだ。


「じいじはいっつもうるさいね、ベル」

「だけど、じいじは目がわるくなったってきくわ。わたしたちがしんぱいなのよ、バル」

「そっか」


 バルとベルはそれから、簡単にお腹を見せるのはやめました。

 可愛くない犬共だ。そう言って、いつもバルとベルにウインナーをくれた酔っ払いは来なくなりました。


「ウインナーはおいしかったね、ベル」

「そうね。でもわたしたち、ウィンナーよりいいものを手にいれた気がするわ、バル」




 犬というものは、強くなければならん。

 なのにどうだ。お前たちはいつもいつも野良猫にあしらわれておる。

 強靭な肉体を持つ、狼とは大違いだ。


「おじじはいつも文句ばかりだね、ベル」

「でも、おじじは耳が悪くなったと聞くわ。私達が心配なのよ、バル」

「そうなのかい」


 バルとベルはそれから、山野を駆け巡っては兎に飛び掛ったりして、体を鍛えました。

 毛がごわごわするわ。そう言って、いつもバルとベルを撫でてくれた女の子は来なくなりました。


「女の子の手は柔らかかったね、ベル」

「そうね。でも、撫でられるより良い物を手に入れたような気がするわ、バル」




 犬というものは、賢くなければならん。

 ところがどうだ。お前たちはいつもいつも分別なく吠えまくって。

 静かに忍び寄って狩りをする、狼とは大違いだ。


「爺はいつも心配ばかりだね、ベル」

「ええ、爺は鼻が悪くなったと聞くわ。やっぱり私達が心配なのよ、バル」

「そうだね」


 バルとベルはそれから、気配を消す練習や、急所を仕留める練習をしました。

 不気味な犬だ。そう言って、よく側に居た乞食は去っていきました。


「彼の隣は暖かかったけどさ、ベル」

「ええ、きっとそれより良いものを手に入れたはずよ」




 ――犬というものは、このように誇り高く生きる生物へと生まれ変わり、高い知性を得たのです。

 バルとベルは初めの二匹と言われ、バルは誇りを、ベルは知性を司る神として、各地で信仰の対象となっていますね。

 また、バルとベルに教えを説いた『爺』は、唯一の聖父として崇められています。

 そして――おや、もう時間のようですね。

 最後にもう一度、皆さんが最初に習った事柄を教えましたが、この意味を皆さんは理解してくれたと、私は信じています。


 では皆さん、(ネオ・ウルフ)としての誇りを胸に頑張ってください。



―――



 和合26年4月1日。

 高い知性を持ち、かつて絶滅した狼に酷似した生物――彼らは自らをネオ・ウルフと呼んだ――が数年前から出没したが、被害報告が無かった為に対策が立てられることはなく、彼らの襲撃に対し全く危機感を持っていなかった我々は大きな被害を受けた。

 全国で同時刻に始まった襲撃は、インフラと行政機能の破壊が効率的に行われた。

 各地で計213市町村が被害を受け、そのうち特に被害の大きかった1県及び周辺都市がネオ・ウルフによって制圧された。

 国際情勢の混乱によって米国を初めとした協力国からの支援も、国内での内乱と扱われ、期待できない。

 国は全力で奪還に取り組むとしたが、制圧された地域の住民との連絡が遮断されていない事による、制圧地からの情報流出が国に亀裂を入れた。

 制圧地の住民曰く、ネオ・ウルフは非常に人道的な振る舞いをしており、彼らは肉食であるが人を食料として見なすことは一切ない。意思疎通ができる者同士、共存したいと言っている。

 この情報はネットや新聞、情報番組で全国に広がり、そして被害状況が纏まるにつれて直接の死傷者が居ない事が分かると、世論は大きく揺れた。

 また、同年4月19日にネオ・ウルフ側から謝罪文と、住民票の交付を訴える訴状が送られ、正式な書式に則ったそれらに対して政府、国会さえも分裂を起こしている。

 近く共存派の議員が誕生する見込みだ。


 国際情勢を見計らった今回の襲撃は、それだけで彼らの高い知性を示すものだと私は思っている。

 我々、ネオ・ウルフ防衛対策部も板挟みの状態であり、あくまで私個人の意見としては、一刻も早くネオ・ウルフを新たな隣人と認め、この部署をネオ・ウルフへの窓口にして欲しいものだ。


―――ネオ・ウルフ防衛対策部 中間報告 及びネオ・ウルフ防衛対策部部長と防衛省長官との会話より抜粋。



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