第九十八話
「ん〜やっぱりスカを入れたのは不味かったかしらねぇ……もっと盛り上がるかと思ったんだけれど、あぁいった場面でのスカは確かに萎えちゃうかぁ……」
俺達の初戦を見ていた紫は、ブツブツと呟きながら考え込んでいる。負けた紅魔館勢はと言うと冷えた身体を妹紅の焼き鳥と慧音が淹れたお茶で暖めつつ、それでも楽しそうに笑顔を浮かべていた
さて。初戦はコケてしまったもののその後はなかなかに盛り上がりを見せつつ進んでいた。特に一般の部は白熱した試合を観客に魅せつける、とても素晴らしい試合運びとなっていた。……まぁ人里の人達が楽しんでくれているので、それだけでも開催した甲斐があったと言うものだ
「藍、そろそろ次の試合だっけか? 観に行くよな?」
「うむ、確か次は……白玉楼だから幽々子様達だな。相手は永遠亭か、不足は無さそうだが人数はどうするのだろう?」
「予備で誰か入るのかもな? だとしたら……あれ、そう言えば咲夜は? いつの間にか居ないし、レミリア達を放ったらかし……は流石にしない筈だけど」
──と、ブン屋が試合開始を告げた。急いで食い物片手に走って観に行くと……
「あ、白玉楼の助っ人は咲夜なのか……」
そう、妖夢の隣に立っているのは紛れもなく咲夜本人だ。どうやら幽々子は後方で雪玉を作り、前衛を妖夢と咲夜が担当するらしい。対する永遠亭は永琳とウサ耳少女が前衛、そして長い黒髪の女性が雪玉を作るらしい。
「あ、早いね悠哉。もう居たんだ」
「おうフラン、レミリアも来たか。ほれ、隣開けるからちょっと待ってな……よしいいぜ」
「あらありがとう。向こうでお好み焼きとやらを買ってきたのだけれど、お一つどう?」
礼を言って一つ貰い、かじると熱々で美味い。……試合中の筈の幽々子の視線が此方を向いているのは、恐らく気のせいだろう
で、肝心の試合はと言えばだが……やはり戦力は拮抗していた。お互い前衛は被弾一つ、俺達の試合と違うのはあまり積極的に雪玉が飛び交っていない事だろうか
──動きが有った。妖夢が持ち前の素早さを活かし台座へと走り出し、幽々子と咲夜が援護する。それに対し永琳とウサ耳少女は予め予測していたかの様に雪玉を的確に妖夢の進行方向へと投げていく。黒髪の女性は──居ない?
「どうやら、永遠亭の方が一枚上手かしらね? ほら、あそこ」
レミリアの指差す先には──黒髪の女性が切り札を一枚取っていた。直後、幽々子達の陣地が不自然に揺れ始め三人が体勢を崩す。特に妖夢は走っていた事もあってコケてしまい、そこを集中砲火され敢えなく撃沈スキマで場外へ
咲夜と幽々子の二人でなんとか黒髪の女性をスキマ送りに出来たものの、その後はジリジリと押され──永琳の投げた雪玉が幽々子の胸元に当たり、決着がついた
「惜しかったなぁ……イケると思ったが、やはり八意先生が上か。当たりたくないなぁ」
「そりゃあそうよ悠哉、なにせ彼女は月の頭脳と呼ばれる程の天才なのだから。恐らく幽々子達の作戦を読み切って姫を動かしたんでしょうね。姫を動かす事はしない、そう思わせておいて裏から回して切り札を取る……油断ならないわね」
「……兎も角、簡単には負けるつもりは無いさ。当たれば精一杯やるだけだからな」
──その後。負けた腹いせに幽々子がやけ食いを始めてしまい、その支払いと後始末に追われるハメになったのは……また別の話である




