第九十七話
「──これより、幻想雪合戦の実力者の部を開催致します! 先ずは、紅魔館の三名と八雲の三名による対戦となります! ルールは簡単、互いの陣地から相手へ目掛けて自慢の腕力で雪玉をぶつけてもらいます! 被弾は全員一律で二度までとなり、三度当たりますと強制的にスキマで場外へと退場となりますのでご注意を! また、互いの陣地から丁度真ん中に戦況を大きく変え得る力を秘めた切り札カードがございますので、相手の投げる雪玉の隙を見てどんどん取っちゃってください! ただし、一度取りますと一定時間は再度の取得が出来ませんのでどれを取るかよく考えてくださいね!」
長々と喋るブン屋に拍手を送りながら、内容を噛み砕いていく。少ない時間でどの切り札を取るか……予めおおよそにでも決めておく必要が有りそうだな
さて、話を聞きながらも藍は雪玉作りに余念が無い。このルール説明は対戦毎に行われる様なので、お互いその間に雪玉を作るみたいだ。まぁ後半まで残れればだが、この話の間にたくさんの雪玉を作った方の勝ちとなりそうだな
「尚、前以てお伝えしておりますが……能力やスペルカードのご使用は非常時を除き禁止とさせて頂きます。使用が確認され次第、その組は退場処分となりますのでくれぐれもご注意を……では、お互いに陣地の外へ!」
俺の前には──レミリアか。藍の前にフラン、橙の前には咲夜が来た。握手を交わし陣地へと戻り……程なくしてブン屋の声が響き渡る
「それでは──対戦、始めぇ!!!」
その声をきっかけに、相手からどんどん雪玉が飛来してくる。まるで雨の様に降り注ぐ雪玉に、陣地の奥の土嚢に身を隠す。──と、明らかに速度のおかしい雪玉が一つすぐ横を飛んでいき土嚢に小さくだが穴を開けた
「あははははっ、それそれ〜!」
「行きなさいフラン、ハチの巣にしてやるのよっ!」
──原因はあいつらか。ってかフランよ、ソレ当たったら競技以前に死ぬぞ?
「悠哉、このままでは切り札も取られかねない。何か方法は有るか?」
「って言ってもなぁ……フランのアレはヤバすぎる。弾切れを狙うのが定石だが……」
「あ、藍様! あのメイドさんがせっせと雪玉を作ってますよ! あれじゃしばらくは弾切れしないと思います!」
「まいったなぁ……仕方ない、藍と橙は雪玉をありったけ作っておいてくれ。くれぐれもその雪玉は使わない様に、頼むぞ」
「分かった、でも悠哉はどうするんだ? さっさと一人当たって抜ける気か?」
「……引っ掻き回してくる」
ほふくで土嚢間を移動し雪玉の飛んで来ない位置へ。……よし、よく狙えるな。先ずは距離間を掴むため、軽く山なりに……
ぼすっ、と相手方の一番前の土嚢に命中。少し逸れたか、次は力を強めて。いけ!
「きゃっ!? だ、誰よ顔を狙ったのは! ぶつけるわよ!」
「あはは、お姉様ったら顔真っ白だ〜! あははははっ!」
……当たった、レミリアの顔に。おまけにフランの手も止まった、ならチャンスだ! 藍と橙に合図を出し、待つ
「「それぇ!!」」
俺が指示した通り、俺の着ていたシャツに雪玉を詰めたモノをレミリア達目掛けてぶん投げたのだ。緩く結んだ程度なので間を置いて──結び目が解け中から雪玉が飛び出す。ルールに何も無かったとはいえ、正直微妙な所ではあるが……兎も角絨毯爆撃とはいかずともそれらしい効果は発揮したらしい
「おぉっと! 八雲の奇策により、紅魔館勢多数被弾を確認しました! えっと……レミリア選手が被弾弐、フラン選手が被弾壱、咲夜選手が被弾壱、となりました! いや〜なかなかギリギリなラインですが、ルールに抵触してはいないためセーフです!」
あ、良かった。指示しておいてアウトとかだったら……止めよう、考えただけでも恐ろしい
「──にゃ!? つ、冷たいです! わぷっ!」
負けじと投げ返して来た雪玉が二発、橙に直撃。三発目は──藍が身を呈して庇ったおかげで当たらず、代わりに藍の被弾が壱になる
「……さて、切り札とやらを使わせてもらいましょうか」
「げ! 咲夜のヤツいつの間に……二人共気をつけろ! あの紫が考えたんだ、きっとロクなもんじゃないぞ!」
「は、はい! 藍様、一旦退きましょう!」
「そうだな、橙行こう! 悠哉は待機で頼む!」
……会場の端で紫が泣いてる気がしたが、気のせいだろう。咲夜が引き当てた切り札は少しの間光り輝き──プスンと音を立てて消えた、それはもうあっさりと。しばらく警戒したものの何も起きず、咲夜が片手を挙げたままという恥ずかしい格好で立っているだけだ
「…………え? まさか、これだけ──きゃっ!」
「咲夜選手、被弾参! よって強制退場で〜す! 残念でしたー!」
呆気にとられた間に橙が二発を立て続けに当て、咲夜は退場。一気に空気が白けたが、まぁ切り札なんだからスカも有るか……
雪玉が飛んで来ないので、悠々と歩いて台座へ。残ったカードのうち適当に一枚めくってみる、なになに……?
「相手の頭上にスキマが大量出現、今現在持っている雪玉と同等数の雪玉が降り注ぐ……?」
「「あ」」
ズドドドドッ! と凄まじい音を立てて、レミリアの陣地へと雪玉が降り注ぐ。そう言えば、さっき藍達に作らせたけどまさかこんなに作ってたなんてな……
あっという間に相手の陣地は真っ白に。いやどう見ても盛ってるだろコレ、いくらなんでもこんなに雪玉作ってない筈だろ。辛うじて分かる二人分の帽子を掘り出して雪を払う
「お〜いブン屋、終わったぞ〜?」
「…………はっ!? そ、そうでした! この対戦、勝者は八雲となりました!」
おめでとうと言うブン屋とは対照的に、静かな観客。紫、見事なまでにコケたな……いやこれからか。何はともあれ、第一回戦はこんな具合で幕を閉じた
そうそう、レミリア達に帽子を返す際に感想を聞いた所。雪玉で死にかけた、もうやだ帰りたいとの事。まぁあれだけ降ってくれば、確かに死ぬかもしれないよなぁ……




