第九十五話
「おーい紫! そっちの土嚢はもう少し右だ! ……そうそう、それくらいで! こっちと同じ位置だからそれで問題ないぞ!」
今一度周りの土地の整備を行い、雪をかき集めておく。紫が先ほどここいら一帯の雪に対して境界を弄って溶けない様にしたので、当日雪が無いなんて事は起きないだろう
「……しかし、紫の気まぐれとはいえここまで本格的になるとはねぇ。こりゃ当日が楽しみだよ! 鬼の力を見せつけられるまたと無い機会だし!」
「やり過ぎ注意、じゃないと無理矢理棄権させられるぞ〜? 楽しみなのは分かるけど」
「無粋だねぇ……分かってるよぉ、ちゃ〜んとやるから!」
「だといいがな……藍、そっちどうだ?」
「ふむ。ボランティアの方々との連携も問題無し、慧音殿のおかげだな。念のため、永琳様達が救護の役も買ってでてくれたからそちらも大丈夫だ。あぁ、早く橙と一緒に雪合戦をやりたいものだ……」
「橙のヤツ、楽しみで仕方ないって具合だったもんな。一応、妖怪とはいえ霜焼けには注意しろよ? 手袋を着けるなり妖力で腕を覆うなりして、な」
「もちろんだ、橙にもよく言って聞かせておくよ。もし問題が有るとするならば……紫様だな」
作業中の紫を見て、藍がため息を吐く。視線の先で、紫が平然と素手で雪を触っている。どうやら妖力も何も使っていないらしく、時折手を擦り合わせたり息を吹きかけたりして寒さを緩和させようとしている
「……バカだろ紫のヤツ、俺や藍がすぐに注意する事を何故忘れるんだよ……」
「バカと何やらは紙一重、とはまさにこの事だな。紫様、もう少ししっかりしてくださいよ……」
ちなみにこの間。萃香に笑われながら指摘された紫は、顔を真っ赤にしてそそくさと妖力を手に纏わせていた。情けないぜ……
何はともあれ、ようやく準備は整った。ブン屋を呼び寄せ開催日を告げて号外を書かせることに。必要事項を追加で話し合うと、彼女はあっという間に飛び去っていき──程なくして戻ってきた
「どうでしょう、こんな感じの記事で? 見出しや説明手順も言われた通りにしましたし、開催日や禁止事項に至るまで収まる範囲で纏め上げましたが……」
「……いや十分過ぎるだろうよ。俺はもうこのまま発行しても問題無いと考えるが、皆はどう思う?」
「……大丈夫そうですね。紫様、如何でしょう?」
「えぇ、これで行きましょう。萃香、貴女もちゃんと見て意見を頂戴」
「ふむふむどれどれ……? うん、嘘偽りは一切無しで見やすい限りだ。私も異存は無いよ」
「決まりだな。ブン屋、これを印刷したら幻想郷の彼方此方にバラ撒いてきてくれ。後は──当日どれくらい集まるか、だな」
「はい、お任せを! 私は直接は参加しませんが、頑張って優勝を目指してくださいね!」
──さて、準備は整った。幻想郷中を巻き込む雪合戦が、幕を開けようとしていた……




