第九十三話
場所や会場も或る程度整った。整備は萃香が担当するらしいので一任し、俺と紫と藍は参加者を募るためブン屋に号外を出させたり直接出向いたりして大忙しだった
──例えば紅魔館の場合──
「あら悠哉、お久しぶりね。来館を心から歓迎するわ!」
「あ、悠哉! いらっしゃい! ねぇ、また遊んでくれるの?」
「よ、スカーレッツ。フラン? 遊びは今日はダメなんだ、また今度な」
「ぶー……分かった。でも約束だよ?」
「おう、約束だ。……さてレミリア、ちぃっとばかし話が有る。今大丈夫か?」
「問題無いわ。で? なぁに?」
一通り事情を説明し、相手の返答を待つ。フランは面白そうだとワクワクしているから、恐らくレミリアも……
「……分かったわ、紅魔館も参加させて頂くわ。人数はそうね……私とフラン、それから咲夜を連れて行くわ。三人なら、人数を考えて問題無いでしょう?」
「あぁ、大丈夫だ。ただ、くれぐれもフランに説明を頼むぞ? 雪玉を片っ端から破壊されちゃ勝負にならないからな」
「む、悠哉ひどーい! 私だってそれくらいは分かるもん! お姉様、絶対優勝して悠哉を見返そうよ!」
「あらあらフランったら……でもそうね、うちの大事な妹をバカにしたんですもの。覚悟なさい悠哉、当たったら雪まみれにしてあげるから」
「バカにしたつもりはなかったんだがな……それじゃあ二人共、詳しい事はまた後日の文々。新聞を待っててくれ。そこにルールとか参加資格とかまぁ色々書いてあるだろうからな」
館を後にしようとすると、何処からともなく咲夜が現れた。何度見ても、いきなり出てくるのは慣れないものだ
「あら悠哉様、いらっしゃいませ。もうお帰りですか?」
「あぁ、事前に伝える事とか参加するのかとか聞きに来ただけだからすぐに終わったんだよ。レミリア曰く、フランとお前さんの三人で出るつもりらしいから体調を整えておけよ?」
「お心遣い感謝致しますわ。せめて門までお見送りを……」
「や、スキマで迎えが……ほら来た。んじゃまたな」
スキマを潜り恭しく一礼をする咲夜を視界に収め、俺はマヨイガへと帰宅した……
──例えば白玉楼の場合──
「……何者ッ!? って……紫様、ようこそいらっしゃいました。幽々子様にご用でしょうか?」
「こんにちは妖夢、毎日お勤めご苦労様。幽々子の所へ案内お願いね」
見慣れた屋敷の廊下を、妖夢の後ろについて歩く。程なくして、幽々子の自室の前て妖夢が止まる。確認を取ってから障子を開き、私は中へと入る
「あら紫じゃないの〜、いらっしゃ〜い。妖夢、お茶とお菓子をお願いね〜?」
「お構いなく。早速要件に入っても?」
「えぇ、どうぞ〜? 貴女のことだからきっと、また面白そうな事を思いついたんでしょうね〜」
ニコニコと笑みを浮かべる幽々子と傍らに控える妖夢の二人に、私は説明を始める。見る見るうちに幽々子の笑みは深まり、妖夢も興味を持った様だ
「あらあら、面白そうね〜。ねぇ妖夢? 私達も是非参加しましょうよ〜。絶対楽しいわよ〜?」
「はい、私も異存は有りません」
「なら決定ね。詳しい事は、後日ブン屋に号外を書かせるからソレを読んで頂戴。まぁ分からない所が有れば呼んでくれれば出向くから」
「ありがと〜。……ところで紫? その〜……悠哉とはどうなの〜?」
「ふふっ、なかなかに良い線行ってるわよ? 悠哉ったら私にもうメロメロなのよねぇ……」
途端にプク〜と頬を膨らませる幽々子。こういう子供じみた仕草が彼女の魅力の一つかしらね……
「ズルいわよぉ紫ばっかり……私だって、私だってぇ……」
「そうね……少し悠哉を独占し過ぎたわね。よし! 今回の企画が終わったら、悠哉を白玉楼へ向かわせるわ。それでどうかしら?」
「…………いいの?」
「えぇ、もちろん。幽々子だってその……彼の事を好きなんですもの。気持ちが分かるからこそ、独り占めはいけないわよね」
「……紫、ありがとう。持つべきものは友人ね……じゃあ彼を骨抜きにして、いっその事亡霊にでも……」
「──ナニカ、イッタカシラ? ユユコ……?」
「じょ、冗談よぉ……! だからそんなに怒らないで、ね? ほら、妖力もしまってしまって?」
「……私、やっぱりお茶を淹れて参ります。しばしお待ちを」
「よ、妖夢〜! 待ってぇ、一人にしないで〜!」
これは少し、キツ〜いお灸を据える必要が有りそうねぇ……覚悟なさい幽々子……
──例えば永遠亭の場合──
「はぁい、どちら様で……あら確かスキマ妖怪の式神の……」
「どうも、お世話になっております。八雲紫様の式神、八雲藍でございます。少しお時間よろしいでしょうか?」
「えぇ、今は急患も居ないし……どうぞあかって頂戴」
「では……お邪魔致します」
長い廊下を進み、居間へと通される。八意永琳様自ら淹れて下さったお茶を頂く……美味しい
「大変美味しゅうございます。結構なお手前で……」
「いいのよそんなに畏まらなくても……それで、今日はどんなご用件で?」
「はい、実はですね……」
──紫様の企画を話す。静かにお聞きになっていた永琳様は、やがて小さく頷かれた
「なるほどね……お話はよく分かりました。姫様も優曇華も、ここ最近あまり娯楽を楽しめていないから渡りに船だわ。参加のほど、どうかよろしくお願いしますわ」
「願ってもないお言葉……さらに詳しい事は、後日配布されますブン屋の号外にてお知らせ致しますのでそれまでどうかお待ちを……では、私目はこれにて失礼させて頂きます」
玄関まで見送って頂いた永琳様にもう一度深くお辞儀をし、私は紫様の力の片鱗であるスキマを開いて中へと入る。紫様へのご報告が楽しみだ……
──後日配布されたブン屋の号外で、他にも博麗の巫女や魔法使いなどが参加を表明したのは言うまでもない
ゆっくりと、だが確実に……開催へ向けて良い方向へ進み始めたのだった




