第九十二話
紫との弾幕ごっこから三日ほど経った。雪はさらに降り積もり確実に気温が下がる今日この頃。紫が起きる時間帯が少しずつ遅くなり、基本的に俺と藍だけがマヨイガにてせっせと雪下ろしや家事に勤しんでいた
「おーい藍、雪下ろし終わったぞー!」
「分かった! 下ろした分は私がかき集めておくから、悠哉はお茶でも飲んで待っててくれ! 居間にお茶菓子と一緒に置いてあるからな!」
お言葉に甘え冷え切った身体を温かいお茶で癒す。お茶菓子は……お饅頭だ、しかも人里で名の知れた茶屋のヤツ。疲れた身体に甘さが染み渡る……
──と、隣にスキマが開いて寝起きの紫が顔を出す。とっくにお昼を過ぎての起床である
「あ、おはよ紫。よく眠れた様で良かったな」
「お、おはよ……ふわぁ。ちょっと支度をして、萃香の所へ行ってくるわ……雪合戦に使う陣地の確保とか土嚢の積み上げとか……」
「ん、くれぐれも気をつけてな。冬はこれからだから、間違っても眠気に負けてそこら辺で寝るなよ? 春先まで会えないのは困るからな」
「ゆ、悠哉……頑張るわ! 朗報を待っててね!」
一気に眠気が飛んだ紫は、大急ぎでスキマの中へ。身支度を整えた紫を見送り、お茶を一口。うん、美味い
「…………悠哉、前に比べて紫様を使うのが上手くなったな」
「失礼な。会えないのがツラいのは本心だし、藍だって困るだろう? 毎日毎日結界の点検やら家事やら……紫に少しでも手伝ってもらわなきゃ、お前さんが倒れるだろうに」
「悠哉……」
「ま、動かないヤツはケツを叩いてでも動かすこと。紫だってソレは同じさ、ただ言うのが俺か藍かの違いだよ」
「紫様が何故お前に想いを寄せているのか、甚だ疑問だよ全く」
──そんなやり取りを藍と繰り広げ時間を潰していると、程なくして紫がスキマから出てきた。帽子や肩に雪が積もっているので、紫も少なからず肉体労働をした様だ
「ただいま二人とも。簡単に場所取りと形が出来たから、取り敢えず見にきて頂戴。意見を聞かせてほしいの」
「了解。さて、行くか……」
「紫様、せめてマフラーなり手袋なり着けて下さい……風邪引きますよ」
スキマを潜り雪が舞い散る雪原へ。広さはだいたいテニスコートよりも少し広い程度で、身を隠すための土嚢が積み上げられている。丁度真ん中辺りには……台座かアレ?
「お、来たね! 久しぶりだね悠哉、と言ってもそんなに経ってないけとね!」
「久しぶりだな萃香。悪いな、こんな寒い中手伝ってもらって……」
「あはは、良いって良いって! 紫から気前良くお酒も貰えたし、何より面白そうじゃんさ! 今から楽しみだよ!」
「そうか……ところで、あの台座みたいなのは何だ? 使うってのは分かるんだが……」
「それについては、私からご説明致しますわ」
紫が抱きつきながら笑みを浮かべて話す。萃香の顔がニヤニヤするのもお構いなく、藍がため息を吐くのも気にせず……正直恥ずかしい
「あ〜、離れてくれないか? 流石にコレは恥ずかしいし、その……当たってるから」
「あら、当ててますのよ? それに……私は貴方の彼女、構いませんわ。えっと台座だったわね……今の所あの台座にはいざという時に両者が扱える切り札、つまりお助けカード的なモノを配置しようかと考えているの。勢力別に参加が予想されるから、どうしても人数や戦力に差が生まれる筈。そこを埋める程の効果を発揮するモノを、あそこに置くの」
「なるほどね……お互いに雪玉が飛び交うからおいそれとは近づけないが、取ってしまえば一気に戦況をひっくり返せる代物か……。だが紫よ、能力を使えば簡単に取られるんじゃないのか? 紫のスキマだったり咲夜の時間操作だったりさ?」
「ソレも想定済みよ。雪合戦の最中は、如何なる状況下においても能力の使用を禁止するわ。使えば即反則行為として失格、ってね」
──なるほどな、それなら余程の事でも無い限りそうやすやすとは取れないだろう。文字通り切り札としての価値を持たせられる訳だ
「ん? じゃあ素で速過ぎるヤツはどうなんだ? 例えば……ブン屋とか」
「あぁ、彼女ね。司会や実況、緊急時のオブサーバーとして動いてもらうつもりだから参加はしないわよ。本人も了承済みだし」
「既に手が回っていたか……相変わらずのお手並み、感服するよ」
「じゃあもっと褒めて〜?」
取り敢えず頭を撫でてみる。気持ち良さそうに目を細めているので、嫌では……なさそうだ
「そうそう、藍? 貴方が参加する場合、式神は無しだからそのつもりでね?」
「……人手不足で泣きを見そうですね。主に紫様が」
──大丈夫なのだろうか……?




