第八十八話
「──起きろ」
頭に響く鈍い音と痛みに起こされた。目を開くと、紫と萃香が腕組みをして立っていた。怒ってるのは分かる、苛立ってるのも分かる……分かるんだが……
顔が赤いままなので、イマイチ迫力に欠ける。ってかその……マヌケに見えて仕方が無い。吹き出しそうになるのを堪え、もう一度二人を見て──今度は我慢出来なかった
「く、くくっ……あははははっ! お、お前らその顔……あっははは! だ、ダメだ! 笑い死ぬっ! あはははは!」
まさか笑われるとは思わなかったのか、ポカーンと口を半開きにして棒立ちの二人にさらに笑いが込み上げてくる。とうとう畳を叩いて笑っても収まらず、その辺を転げ回ってようやく収まった
「と、取り敢えず……ふふ。ふた、二人共落ち着いたようで、くふふ……な、なによりだよ」
なるべく顔を見ない様にして話す。失礼だが、顔を見てまた笑うよりかは幾分マシだろう。が、一向に返事が帰って来ない……
ゆっくり顔を上げると、表情だけが笑っている二人と目が合う。一気に気持ちが落ち着き、さらに落ち込む。紫が右肩を萃香が左肩を掴んで笑みを深めてズイっと顔を近づける
「「何か、先に言う事は?」」
「…………ごめんなさい」
「まったく、酷い目にあったわ。淑女の顔に傷を付けただけじゃなく、その上人の顔見て大笑いするだなんて……見損なったわよ悠哉?」
「確かに私も紫も少し熱くなり過ぎたのは謝るよ。でもねぇ……流石にアレは酷いね、あんなに顔面を地面とぶつけたの久しぶりだよ」
とまぁこんな感じで先程からブツブツと言われ続けている。そうそう、紫が藍を呼び出した際に藍のヤツ吹き出し笑いをしてしまい顔面にグーパンチを食らって何処かへ飛んで行ってしまった……南無南無
「まぁその、悪かったよ。でもあぁしなきゃ二人共収まらなかっただろうし、マヨイガ諸共人生終了とか俺自身まだ嫌だし……」
「……ハァ、ごめんなさいね悠哉。萃香も、ごめんなさい」
「……うん、悪かったね紫。それから、変に疑ったりしてすまなかったね悠哉」
「二人共……俺も悪かった。すまない」
……何はともあれ、なんとかマヨイガと俺の人生は終了せずに済んだ。いや〜良かった良かった
──で、それから少しして……俺の前には酒の入ったお猪口が一つ。隣では紫が俺にもたれかかり、既に日本酒の瓶を何本か開けて空にしてしまっている
反対側では萃香が瓢箪の酒と日本酒の両方を浴びるように飲み干し、藍はと言えば酒の肴を作って運んでと大忙しである。橙は少しだけお酒を飲み、早々と就寝したためここには居ない
「あら悠哉、飲まないの? 美味しいのに……」
「まぁ美味いんだろうけどさ……その、俺飲んだ事無いんだよ。紅魔館のパーティーの時はお酒入ってなかったし、外の世界でも未成年は飲めない決まりだからな」
「あらそうなの……勿体無いわね、こんなに美味しいのに。でどうするの? 飲むの? 飲まないの?」
「……氷と水で薄めてみる。先ずはソレで酔いの具合を確かめてみるよ。イケそうならゆっくり慣らしていくし、ダメなら……仕方ないけど酒は諦めるよ」
藍に頼んで氷と水を貰い、薄めてみる。元々無色の日本酒なので、見た目に変化は無い。が……先ずは一口
「…………薄い、ほぼ水だなこりゃ」
「それはそうでしょう、そんなにたくさん入れればね。少しだけお酒、足す?」
「ん、お願い」
──結局、一人で飲み続けていた萃香が先に酔い潰れ紫がスキマで寝室へと送っていった。今は俺と紫、それに藍を加えた三人でちびちびと縁側で飲むことに
「相変わらず、薄いわね……美味しいのソレ?」
「どうなんだろ……まぁ飲めてるから美味いんだろうさ、きっと」
「……最早酒じゃない気が。紫様、どうぞ」
「あら、ありがと藍」
「ところで紫、萃香と何処まで計画について話したんだ? ちらほら雪も降り出しているし、この分だと積もりそうだから開催は問題なさそうだな」
「……言われてみれば、そこまで具体的に決めてなかったかも。あくまで協力してもらえる、としか……」
「おい。なにやってんの紫よ……」
──開催までの道程は、まだまだ遠そうだ……




