第八十四話
新たに八雲紫の手によって幻想入りをした妖怪のうち、一部の者がスペルカードルールに反対をして引き起こした人里防衛戦から早二ヶ月が過ぎた──
秋の実りに感謝をし、幻想郷にはちらほらと雪が舞い降り始めていた。今はまだ少ないが、紫曰くこの分だと膝下辺りまで積もるかもしれないらしい。先程藍が雪かき用の道具を人里へと買い出しに向かっていたから、建物に積もった雪降ろしも大変そうだ
──今現在、俺が滞在するのはマヨイガ。猫又の橙と共にこれから積もるであろう雪に、思いを馳せていた
「橙はさ、雪って好きか?」
「えぇ、好きですよ! 猫はコタツで〜って歌は有りますけど、私は雪で遊ぶのが楽しいこと知ってますから!」
「そっか……じゃあ積もったら遊ぶか? 雪だるま作ったり雪合戦したり……そうそうかまくら作るのもいいかもな」
「かまくらですか〜、中でお餅を焼いて食べると美味しいですよね。は〜、楽しみです!」
しばらく橙とそんな話で盛り上がっていると、隣にスキマが開いてひょっこり紫が顔を出す
「話は聞かせてもらったわ! 随分と面白そうな話題じゃないの、混ぜなさい!」
「お、おぉう紫……今まで何処に? ってかテンション高いな……」
「貴方と会話した後、幽々子の所に行ってたのよ。ほら、あの娘よく食べるでしょ? 妖夢宛てに食料品や調味料の援助をちょっとね……」
「……一体どれくらい送ったのか分からんが、少なくともテンションを上げておかないと引くくらいなのは分かったよ。で、橙と話してた内容から何か思いついたか?」
橙が紫を見る。尻尾がゆらゆら揺れているから、期待に胸を膨らませているのが分かる。紫も紫で、タメを作って延ばす
「──幻想郷で雪合戦をするわ! チームを組んで賞品も出して、MVPとか細かく決めて……どうしたの?」
「…………いいんじゃないか?」
少々ずっこけ掛けた俺、目を輝かせる橙、キョトンとする紫。第三者が見たら、確実に頭上に?マークが浮かぶことだろう
「と、兎も角! 詳しい事はもう少し煮詰めてから話すから、楽しみにしてて頂戴! あ、他の人には絶対に話しちゃダメよ内緒よ! じゃ!」
言うが早いかスキマに潜って何処かへ行ってしまった紫を見送り、ため息を一つ。こういう時の紫は本当に行動が速い。ちょっと前に藍が、もう少しその速さをお仕事にも〜って嘆いていたし……賢者としてどうなんだろ?
俺の幻想郷で初めての冬は、なにやら楽しくも大変そうな出来事になりそうだ……




