第八十二話
「──以上が、今回の一連の事件の全てですわ。人里の皆様方、ご心配をおかけしてしまい誠に申し訳ありませんでした」
人里の人間達と守護者を一同に集め、紫は全てを説明しきると深々と頭を下げた。守護者が一歩前に出て感謝の意を述べると、人間達の中からもありがとうだの助かっただのと口々に紫に向けて言っていた
「……ふぅ。流石に疲れたわ……」
「ん、お疲れさん。仕方ないとは言え、大変だな……俺なら頼まれてもヤだわ」
顔を見合わせ笑いながら、俺と紫は歩を進める。向かう先は永遠亭の連中が居る簡易診察場、あくまで応急処置しかしていないためそこで改めて診てもらうのだ
「──あら、こんばんは妖怪の賢者様。此度の一件、ご苦労様でございました。そちらの殿方は……あぁ、件の……」
「こんばんは薬師、どうもありがとう。それから貴女の思ってる通り、彼は私の想い人よ。格好いいでしょう?」
「えぇ。さて、惚気もそこそこにして……貴方、此処に来て上着を脱いで頂戴。それから、他に痛む部位も有れば逐次教えてくれると治療が捗るからお願いね」
「はいよ。……これでいいか?」
上着を脱ぎ上半身裸の状態で、薬師と呼ばれた女性に背を向けて座る。一通り背中を診て今度は前を診て、俺からの報告を聞いた上で……うんと一言
「刺し傷や切り傷が主だけど、幸いにしてそこまで重傷では無いわ。薬を塗って包帯を巻き、清潔にしていればすぐにでも治るわ。はい、塗り薬と包帯を渡しておくから愛しの彼女にでも塗ってもらいなさいな」
「ありがとう、えっと……薬師さん?」
「八意永琳よ、よろしくね数藤悠哉君。名前なら紫に聞いたから知ってるの」
取り敢えず手当ても終わったので礼を述べ、今度は三人連れ立って歩く。紫曰く、ちょっとした祝勝会を開いてあるんだとか。で、俺達は今からソレに参加すると
人里の民家の輪から少しだけ離れた位置にポツンと建つ一件の民家。どうやらそこで行われているようだ
「皆、お待たせ〜! まだお酒飲んでないでしょうね?」
「ちゃんと待ってたわよ紫。ほら早く早く!」
玄関をくぐると、そこには既に準備万端で待つ皆が居た。適当に空いている場所に座ると、紫が何処からか取り出した盃を持ち上げ──
「今回駆けつけてくれた仲間に感謝を、そして無事に勝利を得た事に──乾杯!」
「「「乾杯!!!」」」
俺も、永琳が寄越してくれたお猪口を持ち上げて乾杯と打ち鳴らして飲み干す。もちろん酒など飲めないので中身はお茶である
──後はもう好き勝手し放題で、酒の飲み比べをする者や料理に舌鼓を打つ者、一発芸をして笑わせる者や今回の一件で自分が如何にして活躍したかを雄弁に語り出す者など様々だ
「む、悠哉か。大丈夫だったみたいで安心したよ」
「それはこっちの台詞だよ藍。まぁお互いに無事で良かったよ……」
「うむ、それでだな……助けてくれてありがとう。あの時、見捨てずに残ってくれたおかげで紫様の支援が間に合い私は五体満足で此処に居られるんだ。この通りだ」
「いや、礼を言うのは俺の方だよ。まぁいいじゃん、今は騒いで楽しもうぜ?」
藍との距離も少し縮められた様で嬉しい所に、唐突に肩を叩かれる。振り返ると、守護者が居たので挨拶
「お疲れ様。そっちも無事でなにより」
「君や賢者のおかげだよ、ありがとう。改めて──上白沢慧音だ、よろしく頼む」
「ん、こちらこそ。俺の名前は……前に言ったからいっかな」
知り合いも増え、料理を食べながらのんびりと過ごす。やはりこっちの方が断然いいなぁ……
──まぁこの後、酔った紫にスキマを使ったイタズラをされたり食べ過ぎて動けなくなった幽々子を介抱したり、レミリアの武勇伝に付き合ったり永琳に永遠亭について尋ねたりしながら夜はふけていった……
そうそう、もう一つ進展が有った。あの博麗だが、見直したとか言ってきた。見直すもなにも、そちらの勘違いだろうに……
でも、変に疑われたりしなくなったから良しとするかねぇ




