第八十一話
「随分と手酷くやられたみたいね悠哉? 全く、退き際も分からない程切迫していたのかしら……それとも単なる無鉄砲?」
「……酷い言われ様だが、何も勝算無しで突っかかって行ったわけじゃないぞ。お前らが来るまでの間、時間稼ぎをするのがメインだし色々と問題も起きたからな……」
「それで、退くに退けなくなったと……もう少し自分の身を大切にしたらどう? 後ろ後ろ」
クルクルと日傘を回すレミリアに言われ、振り向こうとするとその前にフワリとナニカに包まれる。気づくと、俺は幽々子に抱きしめられていた
「…………馬鹿。心配、したのよ……?」
「……悪ぃ。だけど、後悔してないぜ? 此処で退いてたら、間違いなく藍が危なかったんだからな」
「それでもよ……こんなに傷だらけになっちゃって……ホントに馬鹿っ」
しこたま幽々子に馬鹿馬鹿と連呼され、レミリアにクスクスと笑われて流石に凹み始めた頃……スキマが開いて紫が顔を出した。援軍が到着し、その後藍をスキマで何処かへ運んでいたが……
「紫か、藍の容体はどうなんだ?」
「大丈夫よ。少し出血し過ぎてフラついてはいるけれど、命に別状は無いし後遺症なんかも出ないそうよ。永遠亭の連中を、診てもらうついでに此処に呼んだの」
言いながらスキマに手を入れて、包帯やら薬やらを取り出し俺の治療を始める紫。あくまでも応急程度なので、後で必ず永遠亭の連中の元で診察を受ける様にとも言われる
「ありがと紫。しかしそれでか……なぁレミリアに幽々子、こんな所で立ってていいのか? 援軍らしく戦わないのか?」
「あぁ、私達は出ないわ。咲夜とそれから無理を言ってパチェに来てもらったのよ。ほら、あそこ」
レミリアが指差す先で、大きな火柱が立ち昇る。無理に連れて来られたせいで、パチュリーの機嫌は悪いのだろう。八つ当たりされる側はたまったものではないけれど
そのそばで、ナイフと体術で的確に妖怪を捌いていく咲夜の姿も確認出来る。やはり身のこなしや反応速度など、俺には足りないモノが彼女には有るのを再確認
「それから、うちの妖夢はあそこよ〜」
今度は幽々子が指差す先を見る。妖夢が無双していた。まるで背中に目でもついているかの様に、前からも後ろからも迫ってくる攻撃を全て捌きあっという間に地面に沈めていく。傍らでは半霊が、体当たりを繰り出してサポートをしていた
「はぁ……俺の頑張りって、あいつらの前だとホント霞んで見えるな。羨ましさ半分嫉妬半分ってとこかな」
「あら、そうでもないわよ? 貴方と藍が時間稼ぎをしてくれたおかげで幽々子達が間に合ったのだから、十分立派よ?」
はい終わり、と肩をポンポン叩かれる。痛みが奔り顔をしかめるが、すぐに消えたのでゆっくり立ち上がる
「で、件の妖怪……エンは何処行った? まさか逃がしてなんかいないよな?」
「あぁあの妖怪、エンって言うのね……実力者二人の弾幕を食らって満身創痍になってたから、霊夢のお札で妖力や能力を封印した上でスキマに閉じ込めているわ。流石に出て来れない筈よ」
「だな。それで出て来たら、もう恐怖以外の何物でもないな……」
──最後の一体が妖夢の手で斬り倒され……ようやく事態は終幕へと向かい始めた。日はすっかり夕焼けに変わり、辺りは少しずつ暗くなり始めていた……




