第七十三話
紫達が外からの妖怪を迎えに行って、早一週間が経過しようとしていた。隙を見てスキマから顔を見せてくれるのだが、やはり話し合いは難航している様だ
諦めきれない紫は、難色を示す妖怪達とサシで話し合い相手の言い分を聞いた上でどうにかルールに協力してくれないかと頭を下げている。そんな紫の熱意に負けて、ルールを遵守すると約束してくれる妖怪がちらほらと増え始めたらしい
「まだ全員ではないけれど、必ず説得してみせるわ!」
昨日、顔を見せてくれた紫がそう言っていたのを思い出し上手く行く事を願う。俺だってこの幻想郷に住む一員、出来れば戦いなどしたくはない。だが、向こうにその気が有るというのなら──
「……今のうちに、訓練しておくか」
妖夢に見繕ってもらった刀を取り出し、素振りを始める。ちなみに、今俺が居るのはマヨイガと呼ばれる屋敷である。無欲な者が屋敷にある物を持ち出すと、富を得られると伝えられているんだとか
八雲邸は紫が居なければ出入りが出来ないため、一応徒歩でも出入り出来るこのマヨイガに送られたのだ。ちゃんと同居人も居るし
「悠哉様! お茶どうぞ〜!」
「あ、ありがとう橙。早速頂くよ」
──そう、この娘は何を隠そうあの藍の式神で橙という。元は妖怪の山と呼ばれる山に住んでいて、時折このマヨイガにも訪れるってか住んでると橙が言っていた
なので橙と二人、紫と藍の帰りを待っているのだ。そうそう、橙は猫の妖怪──猫又で配下にはたくさんの猫が居る。……が、まだ上手く指揮出来ず大抵は自由に動き回られてしまい悪戦苦闘しているのだとか。今だって猫相手に命令をしているが、肝心の猫が全く動こうとしない
「……あ〜橙? そろそろ猫を集めるの、止めてくれないか? 俺の周り猫だらけなんだが……」
「え!? どうして私より悠哉様の方に……やはり悠哉様はすごいお方です!」
「や、単に動物に好かれてるだけであって俺がどうこうしたわけじゃないから……」
膝の上や足の周り、お尻の辺りにも猫が引っ付きおかげで動けない。橙にお願いして退いてもらおうにも、欠伸をしたり伸びをしたりと聞く耳持たず。程なくして、橙が肩を落として猫を踏まない様に隣に座る
「……やはり私ではダメなのでしょうか。藍様や紫様の様に立派になりたいと思って修行をしてきたのに……」
──その日は一日橙が沈んでしまい、なんとか機嫌を戻すのに苦労したが……前にも増して誤解されてしまった。あぁ、早く戻ってこないかねぇ……




