第七十二話
季節が秋へと近づく頃、或る重大な一報が舞い込んで来た。紫と藍が慌ただしくスキマを行き来するなか、なんとか聞き出した情報に寄ると……外から妖怪の集団が幻想入りを果たすのだとか
結界やこの世界のルール、地元住民との交流や住む地域等等決める事の多さに走り回っていて、もしも従わない連中が居た場合の対処法等も決めるためにあちこちに指示を送っているらしい
そのせいで、二人とも朝から晩まで働き続けてもうフラフラである。こういう時に手助け出来ない自分に歯噛みしつつも、せめてものサポートと炊事洗濯を一手に引き受けている
「ほい紫、おにぎりとお茶。藍にはいなり寿司とお茶。しっかり食って頑張ってくれ」
「ありがとう悠哉、助かるわ……」
「すまないな悠哉、頂くよ……」
食事をする時間も惜しいのか、手早く口に詰めてお茶を一気に流し込む。飲み込み次第次へ手を出し、またお茶で流し込むという食べ方で瞬く間に平らげていく
「何か不安要素でも有るのか? 忙しいのは理解しているつもりだが、だからと言ってここまで焦る紫達も珍しいが……」
「えぇ。実はまだごく一部の妖怪にしか打ち明けていないのだけど、幻想入りを果たす妖怪のうち幻想郷のルールに難色を示しているのが少なからず居るのよ。拒否をするからと言って追い出すのも簡単だけれど、出来るだけ多くの妖怪を受け入れてあげたいのよ。幻想郷はそういう所だから」
「……だがそいつら、幻想入りしたら絶対何かやらかすぞ。博麗神社や他のパワーバランスを司る場所ならなんとかなるかもしれないが、万が一それ以外の所を襲われればひとたまりもないからな」
「私の見立てでは、一番危ういのは人里かと。唯一人間が暮らす場所ですし、守りも他と比べて弱いですから」
「それだけは絶対にダメよ。私はあくまでも人と妖怪の共存出来る場所として幻想郷を作ったのだから……」
藍の指摘に、紫がさらに頭を抱える。もし人里に被害が及べば、紫が目指している理想に大きく支障を来たす事にも繋がる
「紫、こう言っちゃなんだが……連中が人里に危害を加えるという前提で話を進めてみるのはダメか? 相手方に失礼なのは重々承知しているが、向こうにもそんな輩が居るのだから対策しなきゃいけないし」
「……そうね。最悪の場合も視野に入れて考えるわ。私が守るべきはこの──幻想郷なのだから」
静かに決意を燃やす紫を軽く叩き、藍から食べ終わった食器を回収する。さて、あまり悪い方向へは行ってほしくはないのだが……




