第六十九話
ニヤニヤ笑みを張り付けたレミリアの執拗な質問を躱していると、いつの間にか玄関先まで来ていた。そのまま玄関から外へ出てレミリアの追撃遮断を優先した俺は、庭を通って門へと歩を進めていた
「……すぅ……すぅ……ぐぅ」
「おい、門番が寝てるってコレ……良いのかよ」
どこからどう見ても寝ている門番にため息を吐きながら、さてどうしたものかと考える。しばらくは館へは戻れないし、かと言って行く所もない──と、唐突に門番が身じろぎして起きた
「…………どうも」
「何事も無かったかの様に挨拶するのは構わないが、お前さん寝てただろ。知らないぞ、咲夜に怒られても……」
「あ、あはは……内緒でお願いします。でないと、ナイフが飛んできますから」
「まさかそんな……いくらなんでもナイフはないだろ? オーバー過ぎるぜ、せいぜい言ってそうだな……げんこつとか?」
「だと良いんですけどね……」
彼女の横顔からは、なんとも言えない哀愁が漂ってきていた。本当にナイフを投げられていると言うのか、はたまたブラフか……
「それよりも、貴方は何故此処に? 外に来る必要など無い筈ですが」
「色々有ってね。まぁなんだ、ぶっちゃけて言えば……お宅のお嬢様の相手が面倒になったから逃げてきたってトコだな」
「そ、そうでしたか……咲夜さんならなんとか出来ると思いますし、一度相談してみればどうでしょうか?」
「咲夜ねぇ……向こうはお嬢様命だろうから、果たして此方の願いを聞いてくれるかねぇ。でも言うだけ言ってみるか」
しかし、居眠りしても流石は門番。会話をしている間も少しも気を緩めずに辺りへの警戒を続けている。……気疲れしないのだろうか
「よく毎日立ってられるな、疲れたりはしないのか? いくらアンタが妖怪でも、休憩もしないで立ちっぱなしってのに我慢が続くよな」
「我慢などではありませんよ。私はただ……お嬢様や咲夜さん、それにパチュリー様や妹様や小悪魔さん達を守りたいだけなんです。最前線である門番だからこそ、身を呈して皆さんをお守り出来る……私にはそれくらいしか出来ませんから」
「すごいな、俺にはそこまで出来ない。人間だから、とかじゃなく想いが足りないからなのか……そんな風に想える事が今は無いからな」
「あら、でも貴方には……守るべき方がいらっしゃるのではありませんか? その方を守るために、全力を尽くす……それで良いではありませんか」
「……なんでアンタも知ってるのかはだいたい察しがつくからもう聞かないけどさ。そうだな、手の届く範囲のモノを守る……それしか出来ないけれど、それだけでも十分か」
──結局、レミリアから遣わされた咲夜が様子を見に来るまで俺と美鈴は話し込んでいた。やってきた咲夜が呆れのため息を吐いたくらいだから、余程長い時間を門前で過ごしていたらしい
「上手く言えないけど、美鈴が居る限り──紅魔館は安泰だな」
「もちろんですわ。美鈴が門番であるからこそ、彼処で──最前線で戦ってくれるからこそ私達は安心して敵を迎え撃てるのですわ」
普段は不真面目に見える門番だが、彼女がいるからこそなのだろう──この紅魔館が堅固な城と化し、バランスの一角を担うまでになったのも……
美鈴マジ縁の下の力持ち
彼女が居てこその紅魔館、と考えていますが……皆さんはどう思いますか?




