第六十六話
楽しい時間は早く過ぎ去る。その言葉通り、気づけば既に夜中の三時を周っていた。レミリアとフランは眠りこけ、魔理沙と博麗も充てがわれた自室に戻り──俺達はパーティーの後片付けをしようとしてやんわりと断られ、渋々充てがわれた自室へと戻ってきていた
「客人にまで手伝わさせたとあっては紅魔館の沽券に関わります。お気持ちだけ頂きますので、本日はもうお休み下さいませ……」
咲夜に言われた言葉を思い出しながら、紫と藍の三人でソファーに腰掛ける。本来なら俺が一人部屋で紫と藍が二人部屋に泊まる筈だったのだが、レミリアが余計な気を回したのか三人仲良く一部屋に──かなり大きな部屋ではあるが……──収められてしまっていたのだ
「……さて悠哉、そろそろ話をしてくれても構わないんじゃなくて? 焦らされるのは嫌いなのよ」
「……あいよ」
チラリ、と藍を見ると向こうもジッと俺を見ている。早くしろ、とも取れる無言の圧力を感じ取りながら……俺は重い口を開く
「単刀直入に紫に聞きたい、お前はその…………お、俺の事が好きなのか?」
──やってしまった。色々と聞き方を頭の中で考えながら出た言葉がコレである。藍なんかため息吐いてるし……もう少しマシな聴き方ってモノが有るだろうに、情けない
「そうね……貴方はなんて言われたい?」
「はぐらかさないでくれ! 聞くのもかなり勇気が要るんだぞ? 自意識過剰とかでも言われた日には、寝込む自信が有るくらいにはな」
「あらごめんなさい、それじゃあ答えね。そうね……確かに好きよ? 今この場で──襲いたいくらいには」
紫の顔がすぐ目の前に迫る。金色の瞳に映る俺は、何処か儚げに揺れていて……まるで今の俺の心境を表しているようにも見えた
「やっと、貴方の方から聞いてくれた……待つ身もなかなかにツラいのよ? 全く貴方って人は、どれだけレディを待たせるつもりなのかしらね?」
「……それじゃあ何か、ずっと俺の事を?」
「……えぇ、そうよ。正直に言えば初めて貴方に会ったあの時からね。まさかここまで心を持って行かれるとは、思ってもいなかったけれど……!?」
──気づけば、紫を抱きしめていた。嬉しさがこみ上げてきて、全身を動かしていて……紫もゆっくり応えてくれたのがさらに嬉しかった
「……良かったですね紫様。おめでとうございます」
「ありがとう藍、貴方には色々と世話を掛けたわね……見合う分の事はさせてもらうわ」
「いえ、お気になさらずに。ですが……一つ、お忘れではありませんか? 彼には──悠哉には片付けなければならない問題が有るのでは?」
意味あり気に俺を見る藍と、分かった風に頷く紫。もしや二人共、幽々子との一件を既に知っているのか……?
「悠哉、まずは紫様と両想いとなれた事を祝福しよう。だが……それだけではないだろう?」
「……あぁ、そうだな……。出来れば忘れていたかったけれど、そうはいかないんだよな」
──俺は紫と藍に、幽々子との一件を改めて全て打ち明けた。幽々子も俺を好きだと言ってくれた事や、幽々子から予め紫の事を聞いていた事も含めて全てだ
「それで、お前はどちらを選ぶつもりなんだ?」
「それは……どちらも選べない。勝手だとは思うけれど、紫も幽々子も素敵な女性だしそもそも俺には一人を選べない……」
「優柔不断だなお前は。紫様も幽々子様もどちらも選ぶと? 身の程を弁えろ、お前は人間でお二方は幻想郷のパワーバランスを司る程の実力者。仮にソレが許されたとしても、お前はこの幻想郷のパワーバランスを崩すつもりなのか?」
「俺という個人を橋渡しにして、八雲と白玉楼が手を組むとでも言いたいのか? 紫と幽々子が親友なのは周知の事実の筈だ、それが今更俺が出てきた所でどうこうなるとは思えんが……」
「お前が言う通りだ。だがな、全ての連中がそうとは受け取らないという事だ。未だに紫様の邪魔をしようと寡作する輩も居るし……お前には悪いが、どちらか片方を選んでもらわなければそれだけでお二方の立場が危うくなるのだ」
紫は黙ったまま一言も話さず、ただずっと目を閉じて聞きいるだけ。そりゃ俺だって本音を言えば二人共……である。男だし、美人二人と仲良く暮らせるのならそっちを取ってしまう
でも、それで紫や幽々子が悪く言われてしまうのも嫌だ。やはり、すぐには答えは出てこなかった……
「──じゃあ、本人にも聞いてみましょう」
そう言った紫はおもむろにスキマを開き、一人の女性を招いた。西行寺幽々子本人を……




