第六十五話
ダンスを踊り終えた俺と紫は、連れ立ってダンスホールから離れる。入れ替わりに今度は藍と咲夜が踊り始めるのを眺めながら、ワイングラスに注がれている液体を一口
「……ん、これ酒じゃないよな。一体何だろ?」
「あぁそれね、私が持ち込んだシャンパンとか言う飲み物よ。確か、アルコールを抜いてあるんだとか……貴方の方がよく知っているのではなくて?」
「シャンパンか……アルコール抜きって事は子供でも飲めるアレだな。でもこっちで炭酸が飲めるとは思わなかったよ、このシュワシュワ感が堪らないねぇ」
「飲みなれないとキツいわよそれ。私もまだまだだけど、藍なんか一口飲んで吹き出してたもの……こんなモノ飲めるかーってね」
ふと、その情景が思い浮かんで──プッと吹き出す。あの堅物の藍がダメだったのだ、この幻想郷では幻想入りを果たしたとしても飲めるようになるのは当分先だろう
──と、さり気なく紫が真向かいから隣に移動していた。目が合うとにっこりと笑って腕を絡ませてきたので驚いていると、紫も恥ずかしいのかほんのり頬を赤く染めている
「たったまにはこういうのも悪くないでしょう? その……貴方は嫌かしら……?」
「……嫌じゃないさ。ただ少しだけ、びっくりしただけさ……紫みたいな美人がそばに居てくれるんだ、嫌なわけないだろうに」
「なら、もう少しだけこのまま……」
背丈で言えば少しだけ俺が高く、寄り添う様にして肩に頭を乗せる紫を見て無性に可愛く思えてくる。何時もとは違う一面にドキッとしつつも表面上は平静を装ってシャンパンを飲む
「あら、なかなかにアツアツじゃないの。妬けるわねぇ貴方達……」
「レミリアか……あまり茶化さないでくれ。恥ずかしいのは俺もだからな、嬉しいことには嬉しいが」
「欲に素直で宜しい。人間なのだからもっと欲に忠実になるべきよ、特に貴方はね。何処か抑えているのが丸わかりだもの……もっとスキマ妖怪に甘えてみれば?」
「あら、悠哉ったら我慢してたの? いいのよ甘えてくれても……ね?」
「あぁもういいから。ほらレミリア、博麗がお待ちだぞ? 行ってやらなくていいのか?」
「あら本当、ではこの辺で……まだまだ夜は長いのですから存分に楽しんでいってくださいまし」
クスクスとからかう様な笑みを浮かべて遠ざかるレミリア。フランは──魔理沙と踊っていたし美鈴と小悪魔は会話と料理を楽しみつつも警戒を怠っていない。皆が皆、思い思いに楽しんでいる
「…………なぁ紫、後で話が有るんだけど」
「…………えぇ、お伺い致しますわ。後で、貴方の部屋で」
雰囲気に押されてか、気づけば俺は紫に話を切り出していた。この際だ、幽々子から教えられたあの事も含めて話すとしよう……




