第五十三話
再び眠りから覚めた俺は、極力痛みを感じないようにしながら立ち上がる。まだ頭はボーッとしてしまうが、一先ず意識ははっきりしていて視界もクリアだ
さて、恐らくだけど居間の方から気配がするので行くことに。動きが引き攣ってしまい思うように歩けない……立ててもいざ歩くとなると難しいな……
苦労することしばし──なんとか辿り着いた居間への障子を軽く叩いて反応を待つ。やや間が有って、どうぞと声が掛けられたので一言断ってから居間へと入る
「……なんだか久しぶりに紫の顔を見た気がするよ。まさか見舞いに来てもらえるなんてな、ありがと」
「軽口が言える様なら大丈夫ね。でも本当にびっくりしたわよ、行ってらっしゃいと見送ってしばらくしたら妖夢と試合ってしかも勝ったのに倒れちゃったって……たまたま見に来たから良かったけれど、来なかったらどうするつもりだったのよ」
「ははっ、耳に痛い話だな。兎も角座るぞ?」
ゆっくりと痛まないように注意しつつ座る。向かって右に紫が、左に幽々子が居て此処まで幽々子は黙ったままだ。チラチラと視線を俺へと向けては合う前に逸らしてしまう。話しかけづらいのは分かるが、少々露骨過ぎやしないか……?
「さて、悠哉も来たことだし……妖夢も──来たわね」
障子が再度開き、フラフラとした足取りで妖夢が入ってくる。紫と幽々子に一礼し、俺には目を合わせることなく静かに座る。紫がため息を吐きながら、尚も話を続ける
「先ずは……妖夢、貴女は今回幽々子に一服盛った上に悠哉へ人斬り行為を行った。結果として彼は怪我を負いながらも助かり幽々子も無事目覚めたけれど、何か言いたい事は有るかしら?」
「…………いえ、全て紫様の仰る通りです。何も申し開きは有りません」
「そう……次に幽々子、貴女は妖夢と悠哉の二人を見守る立場に在りながらその責務を怠った。結果彼は決して軽くはない怪我を負ってしまい妖夢も人斬りに手を染めてしまった……これに対して何か言う事は有るかしら?」
「……私も、何も言う事は無いわ。全て、私の責任だから……」
それっきり一言も話さなくなった二人。どちらも顔色は暗いが、なんと声を掛けて良いやら……こんな時に言葉がすぐに出てこない自分が恨めしい
「なら、今回はそちら二人に非が有ると認めるのね。なら……幽々子には先ず謝罪をしこれから半永久的に数藤悠哉へのサポート及び知識面でのアドバイスを行うこと。そして妖夢には当事者として、彼に納得いくまで謝罪をした上で彼の言う事を一つなんでも聞く事──異存は無いわね?」
「ちょ、ちょっと待てって! いくらなんでもキツ過ぎるだろうが! ──っててて……」
思わず大声を出してしまい、懐の痛みに顔をしかめる。だが痛みもそこそこに、紫の決定に反対する
「だ、だいたい……半永久的にサポートとかアドバイスとか強制するべき内容じゃないだろう? 謝罪をするというのはまだ分かるが、妖夢への内容も……なんだよ俺の言った事なんでも聞くって」
「そのままの意味よ。それ程の事が貴方に、貴方の身に起きたのよ。それくらいあって当然だわ」
嫌がるかと思った二人もただ黙ったまま。その後もあーだこーだと食い下がるも紫に全て躱され、結局紫が言った事は覆ることはなかった──




