第五十話
「──あははははぁ! なかなか斬らせてくれませんねぇ! でも、我慢はもう少しなら出来ますから焦らしても意味無いですよぉ!」
「……くそ、焦らしているつもりはないんだけどなっと! だいたいさっきから首か心臓しか狙ってきてないくせに、焦らすもなにもないだろ……あっぶねぇ!?」
斬り返して距離を置こうと身を引いた途端の追撃に、半身になることで回避。袖が千切れて風に舞うのを見届ける暇も無く、次々に繰り出される一撃を避けて躱していなして捌く
だがやはり、技術も地力も経験も何もかもが負けている俺と百戦錬磨の妖夢とでは差が有り過ぎたのか──確実に妖夢の剣が俺の身体を掠めはじめる
「どうしました悠哉様ぁ? 動きが鈍くなってきていますよぉ? もしや……もう終わりですかぁ〜? あははははぁ!」
「言ってろ……! うらぁ!!」
再度斬り結ぶが、身体がついていけずタイミングが若干遅れ──体勢が不利なままで受け合うハメに。そのままギリギリと押し込まれ……
「──もらいましたぁ!」
妖夢の左手が煌めいた──直後感じる懐の異常なまでの熱さ。ゆっくりと視線を下に向けた俺が見たのは……此処に来る時から繰り返し洗って着ていた学生服が赤く染まっていた
「……ぐあああああぁぁぁぁぁッ!!??」
堪らず地面を転げ回る。痛い、痛い、痛い……胸が痛い腹が痛い首元が痛い。先程まで妖夢と戦っていた時に酷使した手足が痛い、冷静に考え事をしようと使っていた頭が痛い、転げ回ったせいで背中が痛い
人間、一度痛みを意識すると全身が途端に痛みだし戦闘どころではなくなってしまう。少量の傷でもその痛みによって動けなくなってしまい、死んでしまうというのを聞いた事が有るが……まさか自分がこんな目に合うとは……
「……おやぁ? コレは何でしょう……? 何かの符のようですが……」
「──ッ!!! そ、その符は……ッ!」
妖夢の足元には俺の生命線とも言える霊撃符と簡易スキマの符が。斬られた際に落としてしまったのか……!
「必要、有りませんね。こんなモノは──こうしてしまいましょうか」
拾い上げたソレらをパッと空中に投げた──次の瞬間、符は全て斬り刻まれ地面に散った……
つまり、俺にはもう打つ手が無くなってしまった事を意味していた。目の前で嗤う妖夢をぼんやりと見ながら、諦めが全身を支配しようとして──横からナニカに叩かれた
「…………半霊?」
必死に身体を揺らして俺へと体当たりを繰り出していたのは、間違いなく魂魄妖夢の半霊であった……




