第四十九話
「──まさか、まだ立てるなんて思ってもいませんでした。確実に意識を奪うように一撃を当てたつもりでしたが……私もまだまだ未熟ですね」
「……そう平然と言われると、なんだかアンタが普通っぽく聞こえるな。言ってる事は人の意識を刈り取って無抵抗にした上で殺る、あんまり褒められたやり口でも思考でもないけどねぇ」
再度対峙する俺と妖夢。ギラギラと瞳を光らせて俺を見る妖夢と、今にも倒れそうな程にフラつく俺。幸いにも痛みは少しずつとれてきているし、使った霊撃符はまだ一枚のみ。手持ちにはまだ余裕が有る
「ところで妖夢……さっきから気になって仕方ないんだが、何故幽々子はあんなにも眠り続けているんだ? 紫みたく寝坊助なのか、はたまた熊よろしく冬眠もどきでもするのか?」
「いえいえまさか……幽々子様にはこの一件が終わるまでしばらくの間眠って頂いているだけですよ。ご存知かも知れませんが、この幻想郷には腕の良い薬師が居ましてね? その薬師から幽霊亡霊にも効く睡眠薬なるモノをほんの少しだけ……ね?」
「──はっ。要するに主に一服盛って眠らせて、その隙に事を運ぼうってハラか……変に頭が回るんだなお前」
「……もう、我慢が出来ないんですよぉ。この手が、この刀が、この身が、この感情が! 自分では抑えきれないまでに昂ぶって……! 誰でもいい、モノを斬りたい人を斬りたい妖を斬りたいと……疼いて仕方がないんですよぉ!」
全てを吐き出す様に妖夢が天を仰ぐ。顔は醜く歪み口は半開き、涎を垂らしながら定まらない視線はまるで──テレビや映画に出てきそうな何かしらの中毒者の様だ
「最初は料理の際に使う包丁と肉でした……斬る度になんとも言えない充足感が全身に奔って、とても心地良いんです。なんて言うかこう……ゾクゾクっと背筋をナニカが奔って行くんです。ソレがまた堪らなく気持ち良くって……天にも昇る心地にしてくれるんです」
一歩、踏み出す。既に最初に会った魂魄妖夢の面影は殆ど無い。人を、モノを斬りたいという想いに囚われた哀れな、だが確実にその想いを遂げるだけの実力を持った少女
ソレが──今、俺の目の前に居る魂魄妖夢だ
「だから……お願いです。痛くはしませんから、黙って私に斬られて下さい。ほんの少しで構わないですから……ね?」
ゆらりと刀を構え──同時に俺の頬に奔る鈍い痛み。拭うと赤い液体が手の甲に付く……全く見えなかった
コレが今の俺と魂魄妖夢との実力差、なのか……
「ふふ、ふふふふふ……やっぱり人を斬るのは気持ちが良いですね。このゾクゾクする感覚、堪らないです……次は何処にしましょうか。腕、ですか? それとも足、ですか? 遠慮せずに何処でも好きな所を仰って下さいね? 」
「ふざけるのも大概にしろよテメェ……こっちがどんな思いで来たくもない場所に連れて来られたと思ってやがる。修行も確かに大切だ、ソレは俺も承知の上だ。だがな、初対面で斬りかかってきたヤツが居る場所になんでわざわざ好き好んで行かなきゃ──」
──たまたま、本当にたまたま。身を屈めた俺のすぐ上を迷い無く妖夢の剣が通り過ぎて行く。頭上から、妖夢の声が聞こえた……
「なら……此処でお別れです。今度こそ、斬らせて頂きますね」
──俺と妖夢の死合いが今再び、幕を開ける──
妖夢がどんどん病んできてる……
何処かで持ち直させるか、だが何処で……
ちょっと展開に悩みますねぇ




