第四十八話
時刻は昼を過ぎ俺は妖夢と庭で対峙している。手には借り物の竹刀、肘や膝には簡素な防具を着けてだ。対する妖夢は竹刀一本のみで、余裕ですとばかりに微笑みを浮かべている
「──ではこれより、数藤悠哉と魂魄妖夢による試合形式での模擬戦を行います。双方、構え」
幽々子の審判の元、俺は見よう見まねで妖夢と同じ格好をする。一礼し──背筋が冷んやりと冷たく感じたので反射的に後ろへと下がる。目の前には妖夢が、竹刀を振り抜いた格好で立っていた
「…………惜しいですが、まだまだ序の口。とことん付き合って頂きますから、そのつもりで居て下さいね悠哉様?」
「ははは……平然と人の喉元掻っ切る様に竹刀を振り抜くヤツの相手は本来ならごめんなんだけどもな。いいぜ、付き合ってやるよ!」
気合を入れて前進しつつ竹刀を水平に構え──一息に突く。面の攻撃ではなく点の攻撃、これなら俺でも狙える……そう思っての行動だったのだが、妖夢はあっさりと竹刀で受け止める
手から離さぬように握り締め素早く竹刀を引いて同時に下がりつつ切り払いを掛けて前進を妨害する。妖夢が舌打ちをして下がるのを見て一先ず息を吐く
「……シャレにならんなこりゃ。何時ぶっ叩かれるか分からんのもそうだが、竹刀なのに首を刈り取られそうな気分にさせられて落ち着かん」
「お望みでしたら叶えて差し上げますが……? 冗談ですからその様に顔色を変えないで下さい、後で幽々子様に叱られてしまいます」
「冗談に全く聞こえないんだよっ! ──うわっち!」
突如背後からナニカが接近、既の所で回避して一撃を叩き込む。まるでグミの様なブヨブヨとした感触が竹刀越しに手を伝い、思わず顔をしかめてしまう。あまり心地の良い感触ではないが……
「……ッ!? よくもぉ……私の半霊を!」
どうやら俺が一撃を叩き込んだのは妖夢の半霊だったらしい。雰囲気を一変させた妖夢が竹刀を突きの体勢で急加速しながら迫ってきた
穴でも空くんじゃないかと思う程の衝撃が身体を奔る。咄嗟に能力を使うも物理攻撃には反応しない事を忘れていた俺は、右肩にその一撃を喰らって──庭の端まで飛ばされた
痛い──右肩はもちろんの事、全身を強打したため何処がどう痛いのかも分からない。視界が歪む、涙が出て来たみたいだ。歯を噛み締めて目を瞬かせて涙を落とし、側に転がっていた竹刀を引っ掴んでうつ伏せのまま備える
──早過ぎる。既に妖夢が目の前に居て、竹刀を振り上げているのが見える。このままだと脳天を竹刀で叩き割られかねないが、俺の身体はそこまで速くは反応出来ない。頼みの綱の能力も物理には無意味、審判の幽々子は……寝てやがるだとぉ!?
「記念すべき最初の一人目が貴方とは……私も本当にツイています。ご安心を、紫様や幽々子様にはきちんと説明しておきますから……では」
──さようなら、外来人の悠哉様──
ソレは躊躇いなく振り下ろされる。だがこんな所で終われない、終わってたまるもんか……!
懐の切り札──持てる霊力の大半を使って霊撃符を最大威力で発動。零距離で喰らい吹き飛ばされる妖夢とは対照的に、ゆっくりと立ち上がる──全身痛むがまだ行ける……さぁ、反撃開始だ……!




