第四十六話
無事桜花結界を越えた俺達は、道中に有る先が霞んで見えない程の長さの階段を進みようやく白玉楼へと入った
空は雲一つ無く晴れ渡り風は少し弱めで心地よく、整備された庭は見る者の心を落ち着かせ桜の木がさわさわと風に木の葉を揺らして出迎えてくれた。白玉楼──どうやら俺が思っていたよりもずっと過ごしやすそうな場所の様だ
目の前を普通に通り過ぎていく幽霊に視線を合わせて見ていると、先に屋敷に入っていた妖夢が呼びに来てくれた。通されたのは居間の様で、お茶とお茶菓子が既に用意されているので一応歓迎はされているらしい……
「幽々子様は現在お召し物を変えておられるので、しばしお待ちを……何かご要望はございますか?」
「いや、大丈夫。にしても……立派な庭だな、詳しくない俺でも凄いって思うくらいだし。コレも妖夢が手入れを?」
「はい、庭師ですので。他にも桜の木の剪定や屋敷の掃除、後は少しですが食事の準備もしております。最も、食事の方は専門の幽霊が居りますのでそちらが殆ど手掛けております」
妖夢から屋敷について色々と聞いていると、妖夢が立ち上がり障子の前に。少し身を引いて開けると、着替えた幽々子が入ってくる
「お待たせ悠哉〜、どう? 新しく新調した着物なんだけれど、似合うかしら〜?」
薄い水色を基調とした着物で、所々に蝶の刺繍が施されていて幽々子の雰囲気とよく合っている。扇子も桜の花びらが描かれていて、優雅さが溢れている
「……よく、似合っているよ。なんて言ったらいいか分からないけどさ、その……綺麗だよ」
「あら、ありがとうね〜。嬉しいわぁ、殿方ってあまり居ないからなかなか意見が聞けなくて……新調した甲斐があったわぁ」
さて、ニコニコ顏の幽々子と微笑を浮かべた妖夢の三人で今後について話すことに。具体的には此処でのルールや俺の役割分担等を決めること、それから──
チラリ、と幽々子が扇子越しに視線を送ってくる。分かっている、俺が来た理由を忘れた訳じゃないのだから……だから妖夢に告げる
「なぁ妖夢、良かったらでいいからその……剣術の稽古に付き合ってくれないか? 俺も男だし、いつまでも守られてばかりってのは恥ずかしいからな」
「…………分かり、ました。私で良ければ何時でもお相手致しましょう。幽々子様、よろしいでしょうか?」
「構わないわよ〜。でも日常に支障を来たさない程度で、やり過ぎはくれぐれもダメよ〜?」
これで取り敢えずは当面の目標である修行と妖夢の監視が同時に行える訳だが……やはり何処か不安は拭えない。俺は振り払う様に、残ったお茶を飲み干した……




