第四十二話
──あぁ、身体が重い。気分も暗いし何よりも頭が上手く働かない。何故こんな状態に自分が陥っているのだろう……そうだ、思い出したぞ……
「なんでまた魂魄と試合をしなきゃならないんだよ……アレで終わったんじゃなかったのか……」
そう、置き去りにして逃げた俺を見つけた魂魄が烈火の如く怒り刀を振り回して追いかけて来たのだ。それで確か……後から追って来た紫達の案で再度試合を行う事になって……
「なんでお前はそんなに嬉々とした表情を浮かべて刀を俺に向けているんだよ……一度本当に真剣に頭診てもらった方がいいんじゃないか?」
「ふふふ……そんな軽口を言ってられるのも今だけですよ……直ぐに黙らせてあげますからね……大丈夫ですよ、本当に痛みを感じる間もなく直ぐに終わりますから……!」
──かつてロンドンを恐怖のどん底に陥れたジャック・ザ・リッパーもこんな風に暗い笑みでも浮かべて人を切り裂いていったのだろうか……ともかく凄惨な笑みを浮かべた魂魄が、試合開始の合図を今か今かと小刻みに身体を揺らしながら待っている
出来ることなら今直ぐ自室に戻って寝たい。紫や藍と修行に明け暮れ、のんびりとした時間を過ごしたい。だが目の前の魂魄が──現実がソレを許してはくれなさそうだ。思わずため息が零れる
「それじゃあ二人とも、準備はいいかしら? ……始めッ!」
短く紫が合図を出し──直後に頭から突っ込んでくる魂魄をいなして地面に叩きつける。惚けてなんていられない、直ぐ様体勢を立て直して迎え撃つ準備を整えて魂魄を見やり……って居ない!?
視界が暗くなったので上に居ると判断し前転しながら斬撃を避け、後ろ手に弾を数発小分けにして発射。同時に上空からもレーザータイプと米粒大の混合弾幕を降らせる
当たって気絶でもしてくれれば御の字なのだが……やはりというか無傷で平然と立っている魂魄を見て全身を虚脱感が襲う。勝ち目なんて全くと言える程に無いのに戦わなければならないなんて……
「外しましたか……次はその首、頂きますよぉッ! 半霊と私の一矢乱れぬ剣撃を見よッ!」
言うが早いか素早い動きで背後に半霊が回るのを気配で感じつつ、眼前の魂魄から目を離さず──地面に叩きつけられる。気づく暇すら与えずにやられるなんて……
立ち上がろうとして、違和感。まさか斬られたかと思い足を見ると、半透明の魂魄が足を抑えているではないか! 意地の悪い笑みで此方を見ながら物凄い力で押さえつけられた足はピクリとも動かすことが出来ない
「「──さぁ、覚悟は出来ましたか? 大丈夫です、痛みなんて感じませんからね。本当に直ぐに、あの世に送って差し上げますからぁ!」」
──あ、死んだ。呆気ない己の死を呆然と見つめる俺に、魂魄は手にした刀をゆっくりと振り上げて……
「はいそこまで〜。それ以上はダメよ〜」
刀身はスキマに呑まれ、間延びした声が辺りに響く。西行寺幽々子がいとも簡単に魂魄を退かせてニッコリと笑っていた。目を瞬かせる俺を見てさらに笑みを深め──直後に魂魄に向き直って持っている扇子で頭に一撃
軽くペシッと叩いただけの一撃は、魂魄を軽々と地面に減り込ませてみせた。──デタラメ過ぎる一撃を魂魄に与え、幽々子はうんうんと頷いている
こうして、俺と魂魄の再戦は勝者である魂魄が地面に沈み敗者である俺が立っているという不思議な格好で幕を閉じた……
結論、幽々様は強し
やはりどう足掻いても、悠哉君は妖夢に勝てない様です。仕方ないネ
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