第四十一話
「悠哉、少し構わないか? ちょっとで良いから時間を割いてほしいんだが……」
事の始まりは、自室から逃げる様にして出てきた俺を藍が呼び止めた事からだった。珍しく真剣な表情で俺と対峙する藍を見て何事かと思い、了承の意を頷きで返して後に続く。藍の自室に招かれたのでそのまま中へと入る
座布団が敷かれお互い向かい合う形で座り、先ずは藍が口を開く
「急に呼び止めてすまないな、何しろ出来るだけ早く聞いておきたい事なんだ。もう一度確認するが、本当に時間の都合は大丈夫なんだな?」
「あぁもちろん、で? そこまで俺の都合を訪ねてくる程の要件はなんなんだ? よっぽどの事とみえるけど……」
何やら少々躊躇う素振りを見せる藍だが、意を決した様に目線を合わせて続きを告げる
「お前は、その……紫様の事をどう考えて見ているんだ? ソレが知りたくなってな……どうなんだ?」
「紫をどう……って言ってもなぁ。此処に連れて来た張本人で今現在俺を養ってくれている恩人で弾幕ごっこやら幻想郷の知識やら教えてくれた友人で……彼方此方に手を回してくれたりする配慮が効く親友っちゃあ変だけど、そんなところかな? で、ソレがどうかしたのか?」
俺の返答に頭を抱える藍。気の所為か唸っている様にも聞こえるが、何処か間違っていただろうか……とも考えてもう一度自分が言った事を確認していると、やがて藍が渋い顔で此方を見てきた
「お前がどの様にして紫様を見ているかはよぉ〜く分かった。だから次にこう問うぞ? お前は紫様の事を──異性としてどう見ているんだ、とな?」
「……異性? つまり、一人の女性としてって事か? そりゃあ美人だしスタイルも良いし、何より頭が良くて幻想郷最強と言っても過言じゃない程の実力の持ち主だろ? 高嶺の花、とはよく言ったもんだよ」
「そうじゃなくてだな! 単純に、お前自身は紫様の事を異性として見ているのかと聞いているんだ! ……そこの所は、どうなんだ?」
「ど、怒鳴るなって藍……そうだな、異性として見た事が有るかと聞かれたら有るぞ。藍だって異性だし、幽々子だって異性だしな」
「……もういい、お前に聞いた私が馬鹿だった様だ。さっさと出て行ってくれ、これ以上は精神的に毒だ」
「失礼なヤツだなお前って……分かった分かりました、んじゃさっさと出て行きますよっと」
ピシャリと障子を閉め、のんびり縁側を歩く。頭の中でもう一度藍の質問を思い出す──
「──異性として、だと……んなの毎日魅力的な女性として見えているに決まってるだろうに……」
俺の呟きは誰に聞かれる訳でもなく、一人何処かへ飛んで行ってしまった……
だから気づかなかった──背後に小さくスキマが展開され、その中で満足そうに藍が頷きながら聞いていた事に……
さて、独り言がバッチリと聞かれていました悠哉君ですね
まさにパパラッチの如き藍様、あぁ恐ろしや……
さて、藍様にこの事を教えられた紫様が喜んだのかどうかは──また後のお話で




