第三十六話
「あ、そうそう。今日友人が遊びに来るのよ、だから挨拶だけでもして頂戴ね?」
「あぁ、それにしてもこの八雲邸に直々に招くなんてよっぽど仲が良いんだな? てっきり此処には誰も呼ばないで、自分の方から遊びに行くんだとばかり思ってたし……先ず友人居たんだな」
「あ、あのね……私にも友人くらい居るわよ! 兎も角、今日やって来るからくれぐれも失礼のないようにしてよね? 次貴方に会うのが死体だなんて私嫌よ」
どんだけ喧嘩っ早いんだよ……と思いつつ了承の意を伝えると、満足気な表情になった紫は庭にスキマを開いて潜り──少しして二人ほど引き連れて戻ってきた
一人はフワフワとした雰囲気が感じられる女性、もう一人は真面目で頑固さが感じられる女性である。あぁやはり女性が来るのかと、この幻想郷のパワーバランスにおいて女性率の高さに驚く
──なんで気づいたら目の前に刀が突きつけられているんだよ。別段何も失礼など働いていない筈だが……ひょっとして出てきたら頭でも下げなきゃいけなかったのか?
「……悠哉、私の隣に居るのが西行寺幽々子で、貴方に刀を突きつけているのが魂魄妖夢よ」
「あら、貴方がよく紫が話してくれる殿方ね〜? 初めまして〜」
ニッコリと笑って小さく手を振る女性──西行寺に対して、魂魄と紹介された方はニコリともピクリともしない。ただただ黙って刀を向けるだけで挨拶もしないし、威圧しているのが丸わかりだ
「……いい加減刀を下ろしてくれるか、精神的にも感情的にもあまりってか全然良くないんだが?」
「──断る。私が目を離した隙に、幽々子様に不埒を働くつもりなのは分かっています。そんな輩を見過ごすほど、私は半人前ではありますが未熟者ではありませんよ」
なんなんだよコイツ、俺が何をしたと? しかも微妙に会話が繋がっているようで繋がっていないし、そもそも何故紫の客人で友人でもある西行寺に不埒を働く必要がある? ……まぁ確かに女性としては出るトコ出て引っ込むトコは引っ込むという紫や藍ばりのスタイルではあるが……
「紫、なんとかしてくれ。挨拶しようにも会釈しようにも、途端に斬りかかって来そうなんだけど……」
「──妖夢、下がりなさい。紫の屋敷内で、紫が懇意にしている殿方に刃を向けるなど許しませんよ」
ニコニコ笑って見ていた西行寺が雰囲気をガラリと一変させて一喝すれば、俺を睨みつけながらも刀を納刀して片膝をついてしゃがみ込む魂魄
「本当にごめんなさいね〜、うちの妖夢がご迷惑をかけてしまって……悪気が有ってやっているわけじゃないから、どうか許してあげて頂戴な〜?」
「あ、えっと……分かりました。俺も魂魄が本気ではないと分かっていましたから」
もちろん嘘である。どう見ても隙を見せれば斬りかかって来そうです、今もチラチラ横目で睨んでくるし……
「ふふっ、貴方って面白い殿方ね……もっとお話ししたいわ〜」
紫に先導されて居間に向かう西行寺を見送っていると、魂魄が立ち上がる際に一言
「あの方に手を出したなら──覚悟することですね。いくら紫様に気に入られているとはいえ、その時は遠慮なく──」
去り際まで嫌なヤツだった
妖夢さん、これから良くしていきますよ〜
最初悪ければ後が良くしやすい……と聞いたので実験してみます、彼女で




