第三十三話
フランドール・スカーレットとの壮絶なやり取りから早くも一週間経った。傷の方もだいぶ治り、日常生活を送る上では問題なくなっている。それでも、ふとした拍子に来る痛みには今だに慣れないが……
そんな俺が今居る場所は──そう紅魔館である。なんでも話し合いが一旦解決したらしく、お礼の意も込めて招待されたのだ。まぁその間紫と藍から散々説教やら何やらやられていたので然程時間が経った気がしないが……
門番の美鈴に挨拶をして門をくぐり、玄関を開けて──咲夜の出迎えに礼を以って会釈をする。彼女の顔には笑みが浮かんでいるので、恐らく前よりは良くなったのだろう
「久しぶり咲夜、元気そうで何よりだよ」
「それは此方の台詞ですわ悠哉様。お元気そうで……お怪我の方もほぼ治られたとか。本当に良かった……」
他愛のない話をして軽く盛り上がりながら、すっかり修復された屋敷を歩く。暫く歩いて一際豪華な扉の前に立つ。前よりも豪華さが増したようにも見える扉を咲夜がノックし、一声かけてから俺も続く
「一同勢揃いとは……てっきりレミリアとフランドールくらいしか居ないのかと思ってたぞ?」
「こういう時は全員集めるわよ? さ、そっちに座って頂戴。積もる話はそれからよ」
俺が席に着くのを待ってから他の連中も座る。やや間が有ってから、レミリアが口を開く
「──今回は我々の不祥事にも関わらず、昂然とした態度で文字通り命を賭けた貴殿の助力に……我々一同心から感謝の言葉を述べさせてもらう。本当にありがとう!」
もちろん八雲達にもな、とクスリと笑うレミリア。初めて会った時に比べて表情は明るく、まるで憑き物でも落ちたかのようだ。パチュリーも血色が良くなっているし小悪魔も何処か嬉しそうだし……咲夜は言わずもがな満面の笑みだしな
「あ、あの……私からもいいかな……?」
少し小さめに控えめに声が発せられ視線を向けると、フランドールがこれまた小さく手を挙げている。若干震えているようにも見えるが……取り敢えず頷いて先を促すことに
「色々と迷惑をかけてごめんなさい! あの後ね、お姉様にも咲夜にもパチュリーにも怒られたけど皆心配してたの……怪我がなくて良かったって泣いてくれたの……私、一人じゃなかったの……!」
ポロポロと涙を零しながらたどたどしく喋るフランドールを、頭を撫でながら落ち着かせるレミリアを見て──やはり姉妹だなと改めて頷く
「な、言っただろ? 一歩踏み出せば変わるモノなんて沢山有るんだから……良かったなフランドール……」
皆の目にうっすらと涙が見える。もらい泣きでもしたのだろうか……かく言う俺も少し危ないが
「だからね、ありがとう悠哉! 私、これからも頑張るよ! ……貴方の事、玩具だなんて言ってごめんなさい」
「なぁに気にするな、だがもう二度と言うなよ? もうお前は一人じゃないんだからな、迷ったり困ったりしたら遠慮せずに誰かを頼れ。進む事を止めなけりゃ、お前の運命は明るいぜ?」
運命という単語に、レミリアが薄く笑う。その笑みに此方も笑みで返して、玄関へと向かう。俺のやるべき事は終わったし、後は紅魔館がどうにかこうにかするだろうし
見送ってくれる面々に手を振って返し、美鈴の所まで戻って来た。目が合ったのでニッコリと笑うと、向こうも笑い返してくれた
「悠哉さん、本当にありがとうございました。皆がこうして笑い合えているのも貴方のおかげですよ」
「いやいや、俺はなんにもしてないよ。ちょっとだけ手を出しただけ、後は紅魔館の面々が上手く繋いだからさ。だから──頑張れよ?」
「はい、もちろんです! あ、そうそう……お嬢様から伝言です。もし何か困った事が出来たら遠慮せずに紅魔館を頼れ、私もフランもお前が来るのを楽しみに待っている……以上です」
「ははは……分かった、その時が来たら真っ先に頼らせてもらうよ。ありがとう美鈴……じゃあな」
未だに手を振って見送ってくれるレミリア達をもう一度視界に収めて──俺は背後に現れたスキマに飛び込む
やはり姉妹ならこうでなくっちゃな──心からの笑顔を浮かべる吸血鬼姉妹を、閉じるスキマの中から見続けながら俺は静かに八雲邸へと落ちていった……
明るく締めたかったけど、どうだろコレ?
個人的にはまあまあだけども、うーんかも……
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