第二十五話
紅魔館の主、登場です
「……初めまして、でいいんだよな?」
「えぇ勿論。まさか賢者が人を寄こすなんて、夢にも思わなかったわ。──改めて初めまして、私はこの紅魔館の主であり誇り高き吸血鬼でもあるレミリア・スカーレットよ。レミリアで構わないから、以後よろしくお願いするわ」
差し出された幼い右手と握手を交わして、もう一度全貌を見る。やはりどこからどう見ても少女にしか見えない、小学生程の背丈のせいかあまり迫力の方も……
唯一、肩甲骨の辺りから生えた身の丈程の大きな蝙蝠の翼が彼女が人外である事を主張している
「さて、先ずは二人に聞きたいのだけれど……パチェは無事かしら? 音沙汰が無くなって随分と経つのよ……」
「それなら大丈夫だ、本人にも会ってきたしな。ただ……怪我したらしく小悪魔に治療されてたが」
「そう……まぁ死んでないだけマシね、感謝するわ。で、何故今こんな時に来たのかしら?」
ジッと瞳を覗かれて、思わず身を引いてしまった。ただ覗き込まれただけ、それなのに……それだけなのにも関わらず背筋が冷たくなったのだ
「……あまり彼を困らせないでやってほしい。貴女の妹君に追われている身なんだ、この意味分からない訳ではあるまい?」
藍が口を挟んで助け舟を出してくれるもレミリアの顔は変わらない。寧ろ先ほどよりも曇ったような……
「貴方……悠哉と言ったわね? 悪い事は言わないわ、早く此処から出なさい。咲夜に護衛させるから、一刻も早くね……」
「そうはいかない。俺は紫に頼まれて此処に来た、何もしないうちにのこのこ帰るつもりはないぞ」
「あの娘に狙われて、生き残った人間は殆ど居ないわ。例外も確かに居たけれど、貴方では無理よ……助けに来てくれたのは心から感謝しているわ。でもそれで死んでしまっては元も子もないのよ」
だから早く──そう言って視線を扉の方へと奔らせるレミリアだが……俺自身はいそうですかと帰るわけにはいかないのだ
「大丈夫だよレミリア。俺は何が有っても死ぬ気は無いし、ましてや誰かに殺される気も無い。やるべき事が残っているうちは這いずってでも生き残る。だから──俺も此処に残らせてくれ、頼む」
頭を下げて頼み込むことしばし……ため息が頭上から聞こえてきた。頭を上げて見るとレミリアと十六夜さんがやれやれといった具合に首を振っていた
「……自殺願望でも有るのかしらね。でも気概は買うわ、数藤悠哉にアレを持ってきてあげて頂戴」
恭しく十六夜さんが下がった──と思ったらすぐ横に居て驚いていると、何やら小さな小箱を渡された。開けてみると中には赤い石が埋め込まれたブレスレットが
「私達吸血鬼の力が少しばかり込められているわ。ソレを付けるということが此処に残らせてあげる最低条件よ。少なくともあの娘に体力面で負ける事は無くなるわ」
「あ、ありがとう……じゃあ早速付けさせてもらうよ。……っと、こんな感じか?」
「お似合いでございますわ悠哉様。くれぐれも外さぬよう……お願い致しますわ」
「分かったよ十六夜さん。その……」
「咲夜、で構いませんわ悠哉様。言いづらそうですし、何よりさんづけは好きではありませんので」
苦笑しながらも藍と準備を整える。俺が話している間藍は紫と何か打ち合わせをしていたらしく、頷きながらしきりに右手の裾へナニカを入れていた
「此方は準備万端だ。悠哉、お前はどうだ?」
「大丈夫さ。そっちの二人は……大丈夫そうだな。これからどうする?」
俺の問いに、紅魔館の主は獰猛な笑みを浮かべてこう言い放った──
「決まっているわ……あの娘を、フランをこれ以上好き勝手させるわけにはいかないもの。……止めるわよ、絶対に」
カリスマ、出せたかなぁ……




