第百八十八話
萃香に無理の無い程度にお酒を飲まされて、気づいたら布団の上で目が覚めた。太陽はそこまで高くはないから、まだ朝の時間帯だろうか
顔を洗って身支度を整えて居間へ向かうと、霊夢と魔理沙が既に座ってお茶を飲んでいた。ちなみに妖夢は既に帰宅していて、萃香はまだ寝室で大いびきをかいて寝ているらしい
「それで悠哉、行き先は決まったかしら。まだなら此処でのんびりして行ってもいいのよ? その分はもう貰っているし」
挨拶もそこそこに霊夢が尋ねてきた。魔理沙も俺の次の行き先に興味があるようで、身体を乗り出して聞く姿勢になっている。少し考えて、俺は答えた
「あぁ、次なんだが……永遠亭に向かおうかと思っているんだ。ほら、俺ってあそこの薬には助けられただろう。でもまだお礼が言えてなかったからさ。かなり遅くなってしまったけれどこれを機に、出向いて直接お礼を言おうとな」
「なるほど。それなら途中まで魔理沙に送ってもらうといいわ、魔理沙もいいわね?」
「おう、いいぜ! どうせ帰る途中だし、それなら一人で帰るより楽しいしな」
必要な荷物以外は神社に置かせてもらい、魔理沙の駆る箒にお邪魔させてもらうことに。見た目は本当にホームセンターとかで売っている竹箒そのものなのだが、よくこれで空を飛べるもんだ……
「それじゃあ霊夢、行ってきます」
「はいはい、行ってらっしゃい。二人とも気をつけなさいよ? 特に魔理沙、あんた振り落とさないようにね」
えっ振り落とされたりするの? と魔理沙に聞く暇も無く、空へ舞い上がる俺達。「出発するぜー!」と元気な彼女の声を聞いた直後──グンと身体が引っ張られ急発進したのだ
「はぁ……言ったそばから魔理沙のやつ、いつもの調子で加速しちゃって。悠哉は大丈夫かしらね……」
そんな霊夢の呟きは、誰に聞かれる事もなく。風に流されていった……
「魔理沙頼むから速度を下げてくれぇぇぇ! 落ちるぅぅぅ!」
「はっはっは! 大袈裟だぜ悠哉、絶対に落ちたりしないよ! 暴れなければなぁ!」
耳元で風がビュンビュン唸り声をあげ、景色がどんどん流れていく。生きた心地がしない空の旅を俺はしていた
何度も魔理沙の肩や腕を叩いて止めろ速度を落とせと頼んでみたが、当人はまだまだ余裕と言って寧ろ速度を上げ始める始末。
腕や足の力が少しずつ抜けていってそろそろヤバい、なんて思っていたら──急に魔理沙が高度を落としはじめた。次第に速度も落ちはじめたからふと足元へと視線を落とすと、眼下に竹林が広がっていた。なるほど、永遠亭は竹林の近くにあるのか……
程なくして、俺は無事に土の感触を味わっていた。大地に立てるだけでなんと嬉しいことか……!
「全く悠哉はオーバーだぜ、あの程度でヒーヒー言うなんてさ。いつもの私はもっともーっと速いってのに……」
「勘弁してくれ魔理沙、あれでも俺からすれば十分に速いんだぞ? 見ろよ俺の足、震えが止まらないんだぞ」
「わっ本当だ、ガクガクじゃんかよ……悪かったぜ悠哉。次はもう少しゆったりと飛ぶからな」
「え、次あるの……?」
兎も角だ、こうして無事に着いたわけだ。さて、件の永遠亭とやらは何処にあるんだ? 周囲を見渡してみたものの、建物は一切無し。ただただ広大な竹林が広がっているだけだ
首を傾げる俺を見て、魔理沙が衝撃の事実を告げてきた
「あぁそうだ悠哉、永遠亭なら竹林の中だぞー」
真顔で魔理沙を見れば、彼女も真顔で見返してきた。嘘だと言ってほしかったがどうやら本当らしい、でもそれなら一体どうやって探し出すんだ……?
「まぁ見てろよ──妹紅居るかー! 客人だぞー!」
魔理沙が竹林に向かって大声を出せば、ガサガサ音を立てながら何かが近寄ってくる。きっとその妹紅なる人物なんだろうが……こんな所に居るなんて、一体どんな人物なのやら




