第百八十七話
「いただきます!」
ざっと見ただけでもお肉にお魚、そしてお酒がたくさん並べられている。俺はほとんど飲めないからあっちは萃香にでも任せて、先ずは湯気の立つお肉から一口
口に入れた瞬間ホロホロとほぐれていきジュワッと肉汁が溢れ出てくる。噛み締めればさらに旨味が溢れてくるソレに麦飯をかきこめば──うん、美味い……!
魚も箸で簡単に骨と身が分けられるくらいに柔らかくて、こちらも湯気が出ている。身はしっとりとしていてこれもまたご飯が進む進む……あっ無くなっちゃった
お代わりを貰いながら顔を上げると、漂ってくるのはお酒の匂い。萃香が酒瓶を抱えていて魚を頭から丸ごと食べながらグビグビ飲み進めていた
……隣で魔理沙が肉を肴にして瓶をラッパ飲みしていて、そう言えば幻想郷じゃあ未成年云々は関係無いんだったと思い出した
苦笑しつつ霊夢にお肉とお酒を渡して見送ると、妖夢が「隣、よろしいですか?」と尋ねてきた。横に寄って場所を作れば、料理を持ってちょこんと座った
「美味しいですね。お酒も料理に合うサッパリとしたモノばかりで、ついつい飲み過ぎてしまいそうです」
「そうか……でもほら、楽しめないよりかは良いだろう? 多少なら羽目を外したって誰も文句は言わないさ、妖夢なら節度を守って飲むだろうし」
「そこはもちろんですよ、私はお邪魔しているんですからね。えっと……そうでした、どうして私が此処に来れたのかお話しようと思っていたんです」
料理とお酒を置いて身体ごと向き直る妖夢に、俺も身体を付き合わせる。今日もいつもの様に庭仕事に精を出していたところ、急に幽々子に呼ばれ俺が博麗神社に向かっているから、到着する頃に合わせて出発しなさいと命ぜられたんだとか
質問を返す間も無く支度して出発したので、何故幽々子がソレを知っていたのかとか、いつから知っていたのかとかその辺りは全くの不明。「申し訳ありません……」と謝る妖夢には大丈夫、話してくれてありがとうと返す
不思議な事と言えば……この料理と酒もそうだ。大量に振る舞ってくれたおかげでありつけなかった、なんてことにはならなかった。けれど、博麗神社にここまで出せる蓄えが有ったのか?
確か賽銭箱は……俺が厄介料を入れた時に木の音が響く程空っぽかったし、此処にいる連中は手ぶらだったから差し入れにしても一体誰が?
悠哉達から離れた、博麗神社の側の茂みで──博麗霊夢はため息混じりに虚空に向かって声を掛ける
「……居るんでしょ、紫。あんたのことだからどうせスキマで眺めているんでしょうし、さっさと出てきなさい」
「あらあら怖いわ霊夢。せっかくの可愛いお顔が台無しよ」
よっこらしょ、そう言ってスキマから出てくる八雲紫にもう一つため息。まどろっこしい……それはそれとして素直に渡せば良いのに、悠哉辺りにもきっと怪しまれているわね
相変わらず扇で口元を隠して胡散臭い雰囲気を漂わせる紫に、私は詰め寄る。一体何が目的なのか、それを聞き出さないといけない
「幽々子に情報を流したのもあんたでしょ? 悠哉が神社にたどり着くまでの時間で知らせて、その上で誰にも姿を見られず悟られないだなんて……間違いなくあんたしか居ないのよ」
「正解ですわ。幽々子は以前から彼の事を案じていましたから、紅魔館を出て博麗神社を目指していると分かった段階ですぐに知らせたのですよ」
あっさりと認めた紫にさらに警戒を強めれば、ヤレヤレと言わんばかりに肩をすくめる。いつもと同じ様に振る舞っているけれど私に言わせれば隙だらけだ
「……ねぇ紫、せめてご飯出したの私よーくらい言って会ってきたらどう? さっきから目が口以上に物を言い続けているのだけれど」
「私が気に掛けているのは妖夢の事、ただそれだけですわ」
目を閉じて、扇で表情を完全に隠してしまった紫。何を思うのかは私には分からない、でもただ一つ私にも分かるのは──
「……ホント、面倒くさいわね」
小さく、本当に小さく。紫が頷いた様に、私には見えた




