第百八十五話
クルクル、クルクル。庭で萃香が瓢箪を回して遊んでいるのを縁側で眺めていると、霊夢がお茶を持ってやって来た。礼を言って一つ取り萃香も呼んで三人並んで各々一口
ふと空を見上げれば雲一つない青空で──ん? 何かがこっちへ向かって突っ込んでくるのが見えた。声を掛ける前に既に霊夢は立ち上がってお札を構えているし萃香は萃香で「やっちまえー!」と煽っている
「おぉーい霊夢ぅ遊びに来たぶふぅ!?」
「うっさい」
速度を落とす事なく突っ込んで来た魔理沙に見事な一撃。哀れ魔理沙はビターンと大きな音を立てて霊夢の貼った結界に、まるでシールの様にピッタリ貼り付いてしまった……死んでいないよな?
指でつついてやればピクッと反応したので、生存確認が出来た俺はホッとため息を吐く。そして霊夢に視線を送って結界を解除させれば、そのままズルズルとずり落ちていく魔理沙
「……ほれ魔理沙、しっかりしろ。帽子の砂とか石は叩いておいたから、流石に衣服なんかは自分で出来るだろ? さぁ立った立った」
「おん……ありがとう悠哉。いやぁ酷い目にあったぜ、全く霊夢は冗談が通じないんだからなぁ。私は悲しいぜ」
「誰目線よあんたは……。ほら、怪我もしてないんだしさっさと退きなさい。邪魔よ邪魔」
ゲシゲシとお尻を蹴られて慌てて差し出された帽子を引っ掴んで縁側に座る魔理沙。念の為怪我はないか尋ねたが、本人曰く大丈夫との事なので代わりにお茶を淹れて渡してやる
「おっサンキューな悠哉。……ぷはぁ美味い、生き返るなぁ。そう言えばお前紅魔館から出てきたんだな、って事は次の目的地が決まったのか?」
「んーとだな、取り敢えず博麗神社に寄ってそれから情報とか集めてみるかって感じでな。魔理沙、何か宛てとかあったりしないか?」
「宛てなぁ……うーん、悠哉の為になる場所って言ってもそう都合良くは出ないんだぜ」
そりゃそうだ。事前に頼んでおいたとかならまだしも今振ったんだからな、そうすぐにポンとは出てこないわな
さて何日か滞在させてもらってそれから決めるか、と霊夢に許可を貰っていると──瓢箪を静かに呷っていた萃香が俺の肩をトントン叩く
「そう都合良い事、有ったね悠哉。ほらあそこ、見てごらんよ」
指差す先に見えたのは──二本の刀に半霊を引き連れた魂魄妖夢が唇を真一文字に引き結んで真っ直ぐ此方へ向かって来ていた
静かに境内へ降り立った彼女は俺を見つけるとホッとした表情を浮かべ駆け寄ってくる。久しぶりに見る妖夢は少し大人びて見えた
「お久しぶりです悠哉さん。幽々子様より、貴方が此処に来ていると伺い手合わせの為に参りました。さぁ、とことん存分に打ち合いましょう!」
──え、今妖夢のヤツなんて言った? 手合わせってまさか今から? 俺だけじゃなく他の皆も呆気に取られている内に抜刀を済ませた妖夢が、早く早くと急かしてくる
「……あんまり境内をボロボロにしないでよね」
諦めた様にため息混じりに呟く霊夢の横で、俺は頭を抱えた……




