第百八十四話
翌朝。ぐっすりと眠れた俺は皆と最後の朝食を食べ、荷物を纏めて──門前で出発の挨拶を交わしていた
美鈴と咲夜から気合い注入と称して背中を叩かれた際に勢い余ってつんのめったり、パチュリーと小悪魔から餞別として魔法薬をあれこれ貰っていく内にどれがどれか分からなくなったので、小悪魔にメモを書いてもらったりして──最後に日傘を差したレミリアとフランから激励の言葉を受ける
「さようならとは言わないわ。貴方と私達の運命はこの先もまだまだ交わり続いていくの、だからまたね悠哉」
「行ってらっしゃい悠哉ー! 頑張ってねー!」
一人一人の顔をしっかり見つめて笑顔で応えた後、手を振りながら俺は紅魔館を後にした
足取り軽くしばらく目的地に向かって歩き続けていると、見知った顔が路端の石の上に座っていた。そう、萃香だ
彼女は俺を見るとニカッと笑って手にした瓢箪を呷り、ツカツカと歩み寄って来た
「よう久しぶり! うんうん良い顔付きになったなぁ……紅魔館で随分と絞られた様だし、どうだい? 此処は一つ──鬼を相手に腕試しといかないかい?」
彼女が四股を踏めば地面が軽く揺れる。だけど、俺は微動だにしない。それを見て益々笑みを深める萃香
両手を大きく広げ、さぁかかって来いと言わんばかりの彼女に対し、腰を落として刀を構える
「ルールに則った一撃だ、死にはしないから本気で来な!」
「応とも! 行くぞ萃香!」
渾身の一撃を与える最適な道筋を程度の能力を使って割り出し、足に霊力を纏わせて一気に加速。胴へ向かって横薙ぎに一閃与えれば──まるで大岩でも斬ったかの様な鈍く重い手応えが
頭を上げれば、僅かに表情の歪んだ萃香が短く小さく息を吐き出している。そして俺の肩を掴んでポーンと後ろへ投げ飛ばして、急に大笑いを始めたのだ。呆気に取られているとうんうん頷きながら、一言
「やるじゃん悠哉」
どうやら彼女の合格は貰えたようで……握手を交わして酒を勧められた。だが残念ながら俺には鬼の酒なぞ飲めないので、彼女の程度の能力でアルコール分を幾分飛ばした液体を飲むことにした
非常に嫌な顔をしていたが……まぁそれでも乾杯には応じてくれた。グイッと一息に飲み干したところで荷物を背負い直し、雑談を挟みながらのんびり飛び続けて
「あら、いらっしゃい悠哉。それともお帰りなさい、かしらね」
「どっちもかもな、ただいま霊夢」
楽園の素敵な巫女が出迎えてくれる目的地、博麗神社に日が暮れる前に無事辿り着いたのだった。お賽銭箱に厄介になる分を入れて、ついでに神頼みもしておく
両手を合わせて拝んでいると、スッと横から霊夢が顔を出してお賽銭箱を覗き込んで──ニコッと笑いかけてフェードアウトしていった
「……霊夢は相変わらずだな、でもホッとしたかも」
そんなご機嫌な様子の霊夢の真似して夢想封印を食らう萃香を眺めながら、俺は苦笑を浮かべて母屋へと向かっていった




