第百八十一話
「おや、目が覚めたかい」
優しい声に上体を起こせば、そこに居たのはいつぞやの死神──小野塚小町だった。相変わらずのだらけた姿で傍らの石に身体を預けるようにして、俺を見て微笑んでいる
此処が三途の川の岸辺である、ということに気づくのに時間は掛からなかった。それに加えて、身体が自由に動くし声も出せることから、以前の時と同じく気を失って此処に意識だけ来てしまったであろうことも
「久しぶり……で良いのかな。小町は相変わらず、サボってるのか? 映姫さんにバレたら、またどやされるぞ」
俺の小言もなんのその。ひらひらと手を振って流される
「今回は短いからね……手短に行くよ。お前さんはこのままだと勝てない、絶対にね。何が足りないのか、分かるかい?」
挑発するように指を振る彼女に対して、少し考えてみる。地力や経験、知恵……正直言って該当する事柄が多過ぎて何と返せばよいのか、返答に困ってしまった
そんな俺を見てからから笑いながら、彼女はようやく答えをくれた
「相手を殺す、っていう気迫さね。お前さんは人間で相手は吸血鬼、いつまで同じ土俵に立って戦っていると──思い上がっているんだい? お前さんはそんな事にも気づかないような莫迦じゃあないと思っていたんだけれどねぇ……?」
本当にそうなのか、自信が持てない。試練ではあると事前に聞かされて準備をして、ようやくレミリアの元まで辿り着いた。そこに、相手を殺す気迫は確かに持ってはいなかった
だが、俺は……俺は覚悟を決めて前に進むと決意した。そのための試練の筈だ、それならば相手が誰であれ必ず倒して進むのだ
「ようやっとまともな顔になったねぇ、正直見てらんなかったよ。ま、精々気張ってきな」
憎らしい程のすっきりとした笑顔を浮かべた小町の見送りを受けて、今度こそ勝つために俺はやる気を滾らせた




